2021年5月の第4週は、国際エネルギー機関(IEA)の温室効果ガス(GHG)排出量ネットゼロに向けた工程表の発表、G7の気候・環境相会合など、気候変動関連のニュースが特に目立った週だった。特にG7会合では、「パリ協定」で約束された2℃ではなく、努力目標として提示されていた1.5℃に基準を厳格化することが合意された。
しかし、ネットゼロや1.5℃目標を国際社会全体で達成していくためには、G7以外の国による取組みも欠かせない。実際、世界資源研究所(WRI)がまとめる2018年の国別GHG排出量を見ると、最も排出量が多いのはG7各国ではなく中国となっている。また、2位はG7のメンバーで、パリ協定に復帰したばかりの米国である。そのため、中国と米国の動向は、1.5℃目標達成のカギを握ると言っても過言ではないだろう。
その米中両政府は、日本時間4月18日に「気候変動危機共同声明」を発表した。この声明の中では、気候変動枠組条約(UNFCCC)における「パリ協定」の目標達成に向けて両国が協力し合い、他国とも協調していく旨が表明された。とはいえ、実際に両国の足並みはそろっているのだろうか。
声明では「協力の方向性」を確認、今後の課題は具体化
気候変動危機共同声明では、米国と中国が直ちに取り組むべき事項3点と、2020年代に排出量を削減するための具体的行動について両国が協議していく8テーマが挙げられた。前者3点は、以下の通りである。
1.英国グラスゴーで11月に開催される気候変動枠組条約の第26回締約国会議(COP26)までにネットゼロに関する長期戦略を各々策定すること
2.発展途上国の炭素集約型エネルギーからグリーン・低炭素・再生可能なエネルギーへのシフトを支援する国際投融資を拡大させるべく、適切な行動をとること
3.モントリオール議定書キガリ改正(※1)に基づき大きな温室効果を発揮するHFC(ハイドロフルオロカーボン)の生産と消費を徐々に削減すること
ある程度具体的な内容が示されているものの、これは両国それぞれが取り組む事項であり、あくまでも向かう方向にずれがないことを確認するものと捉えられるだろう。一方、今後協議を進める8テーマについては、分野が挙げられているのみで、具体的に何を協議するかは述べられていない(図表1)。
いずれの分野も、ネットゼロを目指すうえでは当然検討しなくてはならないものであるため、網羅的に触れられていると評価することも可能だが、総花的とも言える。むしろ、様々な産業と密接に関係するこれら8つの分野で、今後どのように協議が進むのか(または進まないのか)に注目する必要があるだろう。
相互に課された追加関税や、米国による投資規制強化やサプライチェーンの脱中国依存など、協議を通じて両国のグリーン成長や雇用の拡大に資する具体的なアクションを導き出すには障壁も多い。
高い目標を掲げる米中がCOP26にどう貢献するか
今般の共同声明を経て、米国は4月22~23日気候変動サミットの際に新たなNDC目標(※2)を提出した。中国は2020年9月に最新のNDC目標を提出しており、また共同声明後のサミット開催時には、石炭消費の削減にも言及し、各々が積極的な姿勢を見せている(図表2)。
両国いずれの最新NDC目標も、パリ協定において目指す1.5℃目標に整合するものであり、排出量トップと2位の国がこのような目標を掲げたということは、国際社会全体で気候変動対策を進めるにあたり一定の意義があることと言える。
両国は、それぞれにパリ協定と整合する目標を掲げるのみならず、先に紹介した共同声明の中で、パリ協定に関する国際的な議論において協力し合う旨が述べられている。特に、COP26において論点となる、「第6条:市場メカニズム」や「第13条:行動と支援の透明性」における、京都議定書の元で発行されたクリーン開発メカニズム(CDM)クレジットの取り扱いに関する議論の決着に向けて協力することが示唆された。
基本的な立場が異なると思われる両国が、パリ協定の下でのCDMクレジットの活用可否について、どのように合意しCOP26での議論の進展に貢献するのか、注目が集まる。
気候変動対策について一見足並みがそろっている米中であるが、本格的な協力が実現するかは未知数である。今後の気候変動対策における米中協力を見通すうえで、まずは、COP26に向けた両国の動きに注目したい。ネットゼロに向けた長期戦略が国際社会に受け入れられる内容となるか、前回COPで決着せず持ち越された論点についての協力が実現するかなどが注目点と考える。
(※1)モントリオール議定書キガリ改正:「オゾン層の保護のためのウィーン条約」に基づき、オゾン層を破壊する物質の廃絶に向けた規制措置を実施する国際的な取り決めが「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」。ルワンダ・キガリで2016年に開催された第28回締約国会合においてHFCを新たに規制対象とする改正案が採択された。
(※2)NDC目標:パリ協定のもとで各国が提出する「自国が決定する貢献(NDC)」の中で示される目標。徐々に目標を引き上げていくことが求められている。
コラム執筆:宮森 映理子/丸紅株式会社 丸紅経済研究所