11月29日に実施された競馬の「ジャパンカップ」では、3歳時に出走できる主要な3レースすべてを制した三冠馬3頭が出場しました。そのうち2頭は2020年に三冠馬となった若い馬です。もう1頭は2020年11月1日の天皇賞で、芝で走る主要レースであるG1を日本馬として史上初となる8勝目を果たし、このジャパンカップで引退することを発表していた「アーモンドアイ」という彼らの2歳上の馬でした。レースは本命のアーモンドアイが1着で、2着・3着に若い三冠馬がつけるという実力伯仲でした。大変見ごたえのあるレースでしたので、競馬をご覧になる方は満足されたのではないかと思います。

日本シリーズで大差をつけたホークス

一方、11月21日に開始したプロ野球の日本一を決める日本シリーズでは、ソフトバンクホークスが読売ジャイアンツを終始圧倒し、4連勝で日本一となりました。今回でホークスは日本シリーズを4連覇です。ジャイアンツは2019年の日本シリーズから実に8連敗で、2020年の4連戦においてリードできたのは4戦目の1回表のみと、あまりにも不甲斐ない展開でした。

ジャイアンツはセ・リーグ本塁打王・打点王の岡本和真選手や、最多勝でプロ野球新記録である開幕投手13連勝をあげた菅野智之選手など、有力選手を抱えており、シーズンの打率・本塁打数ではホークスを上回っていました。

しかし、実力で勝ると言われるパ・リーグで2位に14ゲーム差(ジャイアンツは7.5ゲーム差)をつけ、クライマックスシリーズで千葉ロッテマリーンズに連勝したホークスがだいぶ上手であったということでしょう。それにしても、2年で8試合して1試合も勝てないというのでは、日本一を争っている感じがしない…というのが正直な感想です。どうしてこれだけ大きな差がついてしまったのでしょうか。

背景にある大きな資金力の差

この結果に関し、元ジャイアンツ投手の桑田真澄氏が興味深い指摘をしています。ホークスとジャイアンツの差について、桑田氏は「一言で言いますと、豊富な資金力を活かして結果を出したということ」と述べています。

ジャイアンツは選手の年俸を43億円支払っており、12球団中2位のところ、ホークスは65億円で1位だそうなのです。日本プロ野球選手会の調査によると球団別平均年俸でホークスは7,131万円で1位、ジャイアンツは6107万円で2位とのことです。選手の年俸は推定であるため、ある程度差が出てしまうと思いますが、ホークスとジャイアンツの間で年俸額においても一定の差が開いているように思われます。

球団・球場の一体運営は球団経営の王道

では、どうして両者の資金力にこれだけの差がついてしまうのでしょうか。日本野球機構が発表している2019年の入場者数はジャイアンツが303万人(1試合4.3万人)、ホークスが266万人(同3.7万人)です。阪神タイガースが309万人(同4.3万人)でトップですが、ジャイアンツの観客動員がホークスを上回っています。放映権収入やファングッズなどの詳細は不明ですが、ある程度は観客動員数に比例するのでしょうし、そんなに大きな差が出るとは考えにくいように思います。そこで、大きな違いとして浮かび上がったのが「本拠地球場」です。

ご存知の通り、ジャイアンツの本拠地球場は東京ドームで、ホークスは福岡ドーム(福岡PayPayドーム)です。そして、東京ドーム(9681)は上場している単独の事業体であるのに対し、福岡ドームはホークス自身が所有しているのです。

東京ドームはここ10年ほど、毎年100億円近い営業利益を稼ぎ出し、150-200億円の営業キャッシュフローを生む優良企業です。熱海のホテルなど東京ドーム以外のビジネスも手掛けているものの、その収益の9割以上は東京ドーム事業が生んでいます。一方、驚くべきことにジャイアンツを含めた読売グループは同社の主要な株主ではありません。つまり、ジャイアンツは東京ドームの収益の要であるにも関わらず、球場の利益は球団に還元されていないのです。

福岡ドームはどうでしょうか。福岡ドームは、もともとホークスのオーナーであったダイエーが「ツインドームシティ構想」として福岡に築いたドームです。同構想の福岡ドームともう一つのドーム、大型ホテル(現在のヒルトン福岡シーホーク)、商業施設を開設するという大きな目標の中で開発されました。

ダイエーはユニードという九州の大手スーパーを傘下に収めるなど九州での事業展開に積極的で、アジアとのアクセスの良さなどから、福岡に力を入れていました。その後、ダイエーの経営悪化などで、これらの福岡事業はダイエーの手を放れます。この内、球団を買収したのがご存知の通りソフトバンクグループ(9984)です。ソフトバンクはこれら福岡事業のうち、球場のみを球団の傘下としました。商業施設は三菱地所(8802)、ホテルはファンドの所有です。おそらく、ホークスは球団経営において球場は不可分と考えていたのでしょう。

球場を重視する考えは他の球団も同様です。楽天イーグルスは宮城県営だった宮城球場を球団運営とした上で、ホーム球場としています。この球場で杜の都のファンを味方に球団創設9年目で日本一となりました。その舞台も宮城球場です。

日本ハムファイターズは札幌市が保有し、外郭団体が運営する札幌ドームを本拠地としていましたが、その運営方針に対する反発もあり、球団で運営する「北海道ボールパーク」を開発しています。

「実力のパ」では西武ライオンズも自社の西武ドームを有しています。球団・球場の一体運営は球団経営の王道ということなのでしょう。

ジャイアンツに見られる球場問題

一方で、東京ドームは「ジャイアンツの球場」と言い切れない状況が続いていました。そもそも、北海道移転まではファイターズの本拠地でした。結果的に、ジャイアンツでは球団と球場の一体運営による双方の収益の向上が不十分だったと思われます。

先述の通り、球場からの収益を得られていません。東京ドームは毎年100億円の営業利益を出しており、その額はホークスとジャイアンツの年俸格差を遥かに上回っているので、球団・球場の一体運営によるシナジーでその格差を十分に賄えそうです。逆に言うと、この「球場問題」こそがジャイアンツとホークスの大きな差だと思われます。

ジャイアンツファンにとってはあまりにも残念な状況です。そして、資本市場はこのような状況を見逃しません。アクティビストである香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」は東京ドーム株を買い集めていました。そして、日本シリーズでジャイアンツが敗れた翌日(11月26日)、東京ドームが買収されるという報道が流れました。次回は、この東京ドーム買収について見ていきましょう。