本日(11月13日)の日本経済新聞に「島忠、ニトリの買収提案受け入れ DCM案から転換」という記事が掲載されています。ホームセンター大手の島忠(8184)には同業のDCMホールディングス(3050)が4,200円で公開買付を行っており、それに対して国内家具最大手のニトリホールディングス(9843)が5,500円での公開買付の意向を示していました。もともとDCM案に賛同していた島忠でしたが、この金額差ではニトリ案に賛同せざるを得なかったのだろうと思われます。この動きはアクティビストを考える上で、また投資アイディアとしても重要だと思います。そこで、改めて経緯を振り返ってみましょう。
※DCM、ニトリそれぞれが島忠に提示した内容や、両社の状況については10月30日付記事をご覧ください。
島忠の株価が3ヶ月で倍近くに上昇
一連の動きの中で島忠株は大きく値を上げました。8月末には3,000円に満たなかった島忠の株価は11月12日には一時5,500円と、倍近くになっています。9月中旬にNHKなどで、DCMが島忠を公開買付する見通しが報じられ、実際に10月2日にはDCMによる公開買付が発表されました。DCMの公開買付価格は、4,200円です。報道時点で8月末に3,000円ほどだった島忠株は3,500円を超える水準になり、公開買付を公表した翌営業日10月5日には高値4,210円をつけ、以降は4,200円近辺で取引されていました。
ニトリの参戦が報じられたのはその後です。報道が出る前に4,195円で取引を終えていた島忠株は報道を受け、4,805円(10月21日終値)に再度大きく値上がりしました。この時点ではニトリの公開買付価格は明らかになっていませんでしたが、ニトリが公開買付を行うとすると、DCMの4,200円を上回るのは確実で、DCMが再対抗する可能性なども踏まえて島忠株は5,000円近くまで買われたのです。
少なくとも、DCMが公開買付を発表してから4,200円近辺で島忠株を売却した株主は残念な想いをされているでしょう。DCMによるニトリ株の公開買付期間は11月16日まででした。DCMの公開買付に上限はなく、公開買付が成立する限り、島忠株主は島忠株を11月16日までに公開買付に申し込めば4,200円で売却できたわけです。過去の記事でも述べている通り、「公開買付の際は、取引所での売却を急ぐことはない」のです。
今後も公開買付はより一層、一般化してくるとも思われますので、この点には特にご注意ください。そして、この後にニトリが公開買付価格5,500円を提示し、以降の島忠の株価の値動きは先述の通りです。この値動きはとても重要なものだと思われます。
「割安株」として島忠に投資していたアクティビストの存在
島忠はもともと割安株と言われていました。同社の1株あたりの純資産は約4,600円で、DCMの公開買付価格を上回っています。また、同社はリーマンショックの時期を含め、黒字経営を続けており、有利子負債も少ない会社です。同社は主に東京・埼玉に大型店を展開しており、その立地も魅力的に思えます。
それもあって、島忠株にはもともとアクティビストである旧村上ファンド関係者が投資していました。また、現在、東京ドーム(9681)に臨時株主総会を求めているアクティビスト「オアシス・マネジメント・カンパニー」も同社株に投資していたようです。同投資会社はDCMの公開買付発表後、つまりDCMの公開買付価格である4,200円付近まで値上がり後も島忠株を買い増しており、報道によれば「買い手候補を広く募った上で、ベストプライスを追求すべきである」と述べています。このことからも同投資会社がDCMの公開買付に不満があったことが伺えます。
当初、DCM案に賛同していた島忠
ここでぜひご記憶いただきたいのは、「島忠取締役会がDCMによる島忠への公開買付に賛同している」ということです。取締役会は、DCMと資本関係を有しておらず、また外部者による特別委員会を設置し、第三者による株式の価値評価を経て4,200円というDCMの公開買付価格に賛同しているのです。
もともとDCMの提案は3,800円での公開買付でしたが、同特別委員会は中立的にDCMと交渉し、4,200円の公開買付価格を引き出したとのことです。島忠の取締役会や特別委員会での決定内容の詳細は明らかにされていません。しかしながら、形式や経緯を見ると、DCMの公開買付や島忠の対応は妥当のように見えます。実際にこれまで島忠以外で成立した公開買付の形式や経緯とほぼ同じだったと言えるでしょう。
結果的に明らかになったアクティビストの影響力
しかし、このようなプロセスを経ていても、結果的に公開買付から1ヶ月も経たないうちに実際にはより良い買収者候補が存在したことが判明し、株価はその公開買付価格を大きく上回る5,500円近くなっています。この動きには、「株主にとっての会社の価値を正しく分析し、リスクをとり、かつ会社に働きかけることができるアクティビストの影響力が大きかった」と言って良さそうです。
結果的に多くの島忠株主はよりよい条件で株式を売却するチャンスを得られたわけです。アクティビストなど株主利益を優先する投資家と同じ船に乗ることで、自分の分析などをしっかりと利益につなげられると言ってもいいのではないでしょうか。
今回の島忠への公開買付に関する動きは、アクティビストの存在の意義などを理解する上で非常に分かりやすい例でしたので、記事として取り上げました。次回は、前回記事でご紹介しました光通信(9435)の話をさせていただきたいと思います。