ウォール街で毎年耳にした言葉

移民の国であるアメリカに住んでいると、人種の違いだけでなく、異なる宗教があることを強く意識させられます。私が1990年代前半にウォール街の証券会社で働いていた時のことです。当時私が勤務していたウォール街の投資銀行であるソロモン・ブラザーズやゴールドマン・サックスはユダヤ系の証券会社として知られていました。

その時仲良くなったユダヤ人のトレーダーの友人の結婚式に呼ばれたことがあります。 もう30年くらい前の話ですが、その結婚式では音楽や踊りもあり、お祭りのような催しで大変楽しかった記憶があります。結婚式のハイライトには、新郎がナプキンにつつんだガラスのコップを足で踏みつけ割るといった儀式もありました。これはその儀式をもって、新郎新婦にとってこの結婚は永遠に続く誓いの証となります。

この週末、たまたまそんなことを思い出しながら調べものをしていましたら、ユダヤ教の休みが米国株のマーケットのパフォーマンスに影響を与える格言があったことを思い出しました。それが「ロシュ・ハシャナの前に売り、ヨム・キプールの前に買え」というものです。 
普通の日本人には全く馴染みのない2つの単語であり、私もすっかり忘れていましたが、今思い出すとウォール街で働いた時には、毎年必ず耳にした言葉でした。

ロシュ・ハシャナの前に売り、ヨム・キプールの前に買え

ロシュ・ハシャナとはユダヤ教の新年のことであり、ヨム・キプールとは償い 、罪滅ぼしの日という意味で、ユダヤ教では最も大事な祭日です。では何故ユダヤ教の新年の前に売り、罪滅ぼしの日の前に買うのでしょうか。この間はユダヤ教の人たちの宗教的なお休みであり、新年の前に株のポジションを手仕舞う傾向があり、大事な祭日の後にマーケットに戻ってくるということのようなのです。私たち日本人は年末に大納会を行い、お正月を迎える間マーケットは休場となりますが、ユダヤ教のお休みの間はアメリカの株式市場は通常通りに開いています。

このユダヤ教の休みの間の米国市場では商いも細り、マーケットのパフォーマンスについても、この期間は下がることが多いと言われています。

米ストック・トレイダーズ・アルマナック誌によると、ダウ工業株価指数は 1971年から2019年までの間55%の確率(49年のうち 27年下落)で、この間平均0.5%下落しています。2019年ですと、2.1%下がっています。因みに、前回の大統領選のあった2016年も0.6%下落しています。

2020年のロシャ・ハシャナは9月18日の金曜日の夕方から始まり、 9月20日 の夕方に終わります。また、ヨム・キプールは9月27日に始まり28日の夕方に終わることになっています。つまり、この格言は、2020年であれば9月18日の前に売って、28日までに買い戻せというものです。

丁度調整中の米株市場ですが、2020年はコロナショックもあり、歴史的にも大変興味深い大統領選挙も行われる年です。アメリカの株式市場で長い間語られ続けてきた格言が、果たして2020年も有効なのかどうか、大変興味があるところです。