大きすぎて責められることはない?ハイテク企業へ吹く逆風
7月29日、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)4社の経営トップが出席し、米議会下院の司法委員会による公聴会が開かれた。今回は、コロナウィルスの感染拡大を防ぐ目的もあり、4社のトップはビデオ会議システムを通じての出席となった。米議会の公聴会は、議会の委員会が法律を作る時の参考にしたり、政府機関の不正を調べたりする目的で開くもので、政府高官やFRBなど公的機関の幹部のほか、企業経営者や民間の有識者らが招集される。
GAFA4社のCEOが一同に会するのは今回が初めてのこと、議員らは各社が圧倒的な力でライバル企業を制圧し、公正な競争を阻害していると非難、反トラスト法(独占禁止法)の規制強化に言及した。しかし、100年以上前に制定された現行の反トラスト法では、社会のデジタル化やデータ経済の進展に十分に対応できておらず、デジタル時代における新たなルール整備に向けた課題も浮き彫りとなった。
フィナンシャルタイムズの記事によると、元民主党大統領候補のエリザベス・ウォーレン上院議員は、ツイッターへ「ビッグテックは大きすぎて説明責任を負わされることはないと考えている。そして、独占禁止法が大胆に行使されない現状では、彼らはその通り(大きすぎて責められることはない)となっている」と投稿した。
初めて公聴会に出席したアマゾンのジェフ・ベゾスCEOは、アマゾンとの競争を強いられている中小企業が「アマゾンは自分たちの声を全く聞かない」と議会に働きかけていることについてコメントを求められると、「それは受け入れられないことだと思う。もしわれわれが話を聞かないのであれば、それは全く喜ばしいことではない。しかし、少しだけ意見を言わせてもらうなら、それが組織的に行われていることだとは思わない。その点を考慮してもらうのに役立つと思われる証拠として、サードパーティの販売者は、全体として、アマゾンで非常にうまくいっているということだ。」と答えた。
ベゾス氏が指摘しているように、7月30日にアマゾンが発表した第2四半期(4–6月期)の決算によると、サードパーティーの売上(アマゾン・マーケットプレイス)は181億9500万ドルと、一年前(119億6200万ドル)に比べて5割以上増加している。
強大な力を持ち今や帝国レベルとも言える規模にまで成長したハイテク企業に対して、こうした政治的な圧力も含めた逆風が吹きつつある。しかし、実際のビジネスには今のところほとんど影響がない。アップルに至っては、好調な決算発表を受けて株価が大幅に上昇し、31日時点の時価総額が1兆8170億ドル(約192兆円)と過去最高を更新し、サウジアラムコを初めて上回り、時価総額世界一の企業となった。
巣ごもり消費を一気に取り込んだアマゾン
では、アマゾンの足元の業績を詳しく見ていこう。アマゾンの4–6月期(第2四半期)決算は売上高が889億ドル(前年同期比40%増)、1株当たり利益は10.30ドルと、ともに市場予想を上回った。パンデミックへの対応によってコストが増加した一方、これを相殺し、着実な利益成長を遂げていることが改めて確認された。コロナウィルスの感染拡大が続き外出が制限されたままにある中、4–6月期の決算数字に注目が集まっていたが、「巣ごもり」の需要を一気に取り込んだ。
利益率は前四半期に比べて6.6%に上昇し、2番目に高い水準となった。
セグメント別の営業利益では、引き続きAWSがけん引役となっていることが分かる。AWSの営業利益は33億5700万ドル(前年同期比31%増)で、全営業利益の約58%を占めている。一方、インターナショナルが今四半期は営業黒字に転換した。
ベゾス氏は今四半期について次のようにコメントした。
「今期も非常に特徴的な四半期となったが、これほど世界中の従業員を誇りに思い、感謝することはできない。3月以降、175,000を超える新しい求人を生み出し、125,000人の従業員を通常のフルタイムのポジションに配置する準備を進めている。」
アマゾンの従業員数は6月末時点で過去最高の87万6800人となった。
さらに7–9月(第3四半期)は、売上高が870億–930億ドル、営業利益は20億–50億ドルのレンジになる見通しだ。アナリスト予想はそれぞれ、売上高が865億ドル、営業利益は30億4000万ドルである。引き続き、巣ごもり消費が期待できる中、アマゾンがどこまで収益を伸ばすことができるのか、また秋風が吹き始めた頃に明らかになる。
収益が大きく伸び、雇用も拡大し、企業として社会に対して貢献をしているのは明らかであるが、強くなればなるほど社会における影響力は大きくなり、それに対して足を引っ張ろうとする動きが出てくるのは当然の流れである。こうした動きにアマゾン始めとしたビッグテックは屈するのだろうか。
テクノロジーは国家の競争力の屋台骨
公聴会が開かれた同じ日、トランプ大統領はツイッターに「議会が巨大ITに公正さをもたらさなければ、大統領令を用いる」と投稿、コロナウィルスの感染拡大によって苦境に陥る産業や国民が多いなか、ハイテク企業に対しての当たりを敢えて強め、ガス抜きをしている。さすがプロレスラー政治家である。
一方、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のブレット・ホレンベック助教授は「公聴会は始まりにすぎない。規制強化の流れは選挙で民主党がどの程度の議席を確保するかによる」と指摘している。民主党のバイデンが大統領となり、議会での議席数を民主党が数多く勝ち取った場合、ハイテク企業は目の敵となる可能性も指摘されている。
フォーチュンの記事「Joe Biden wants to end the era of big companies paying nothing in taxes(ジョー・バイデンは大企業が何も税金を払わない時代を終わらせたがっている)」によると、バイデンは、法人税率を現在の21%から28%に引き上げることに加えて、企業の「簿価所得」、または投資家に報告された利益に15%の最低税を設定するなど、米国の大企業が合法的な抜け穴を利用するのを防ぐための法人税法変更を提案している。
また、米国企業によって報告された外国での利益に対する税率を既存の10.5%から21%に倍増することも考えており、2017年にトランプ政権が米国の法人税法を大幅に見直したことを事実上覆そうとしている。これは、おそらくアマゾンのように、税制を自分たちに有利な方法で使い、巨大な収益を上げる時代に終止符を打つだろうと記事ではまとめている。
トランプ大統領は、中国バイトダンスが提供する世界的に人気の動画共有アプリ「TikTok」に関して、「米国内で禁止するつもりだ」と述べ、大統領権限で禁止のための措置を取る意向を明らかにした。利用者の個人情報が中国政府に悪用されるおそれがあるためとしており、トランプ大統領は「私にはその権限がある」と述べた。
バイトダンスについては安全保障に関する問題も含んでいるため、一括りにすることは出来ないかもしれないが、時に政治家は自分の利益のために、強い影響力を持つ企業に対して見せしめとも思えるような攻撃を仕掛けることがある。これから本格化する大統領選挙戦においても、折に触れてビッグテックに対する攻撃が繰り出されることになるだろう。
しかし、前述のようにトランプ政権が中国バイトダンスに対して圧力をかけているのも、その背景にはテクノロジーをめぐる世界的な競争があり、それが国の安全保障にもつながっているからだ。テクノロジーは国の競争力の屋台骨である。政府がハイテク企業に対する規制を強め、その企業の競争力を削ぐことは、翻って自国の利益を毀損することにもなる。
ハイテク各社はロビー活動資金を増やしつつある。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の公聴会は、貧富の差の拡大の不満(儲けすぎ批判)へのガス抜き的なパフォーマンスに過ぎない。米国にとってGAFAは世論誘導や監視社会のツールでもあるからだ。
一方で、今後も「政治的なパフォーマンス」によるテクノロジー企業への圧力は強まる局面がありそうだ。フェイスブックはトランプ寄りになっているものの、リベラル派と軍産複合体の牙城であるGAFAがトランプは大嫌いだからだ。
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