中国株は徐々に回復基調

5月下旬の中国本土株は、5月22日(金)に中国政府が香港の統制強化のため「香港国家安全法」を制定する方針を表明したことから、米中対立の激化懸念で大きく下落したものの、その後、株価は少しずつですが戻してきています。

株価のトレンドを変えるような大きな上昇ではないのですが、トランプ米大統領が中国に対抗措置を発表すると示していたことや、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・最高財務責任者(CFO)の、米国への身柄引き渡しを巡る裁判でカナダ、バンクーバーの裁判所がファーウェイ側の主張を退け、引き渡し手続きを継続させる判決を下したことなどにも関わらず、経済活動再開と財政政策への期待が株価を支え、ジワジワと株価の回復が続いているイメージです。

上昇するセクターは日替わりでした。たとえば5月28日(木)は保険機関による商業銀行の資本性債券に投資する要件の規制緩和で金融株が全面高となる一方、5月29日(金)は旅行や娯楽関連の上昇が目立ちました。

優遇措置撤廃なら香港の立場が危うく

その一方で香港株は中国本土株と比較すると弱い動きが続いています。中国の政策期待が株価を支える一方で、「香港国家安全法」にかかる米中対立やデモへの懸念が株価の重しとなりました。

5月29日(金)にはトランプ米大統領が香港に認めてきた関税や渡航などの優遇措置の撤廃を示唆しています。この対中制裁は、中国に対する追加関税などの米国や世界経済に与えるインパクトが大きな政策ではなかったために、発表後、米国の株価は反発して切り返しました。

しかし、香港にとってはかなりのインパクトがあります。香港には米国が中国に課している対中制裁関税やハイテク製品の輸出規制が適用されていませんが、これらが適用されるようになれば中国の国際的な窓口としての香港の立場が危うくなります。

中国の経済指標は緩やかな回復を示唆

5月終盤に発表された中国の経済指標ですが、5月27日(水)に発表された4月の工業企業利益は前年比4.3%減と減益にはなったものの、3月の34.9%減からは大きく回復しました。

また、5月31日(日)に発表となった5月の中国国家製造業PMIは50.6と、市場予想の51.1や4月実績の50.8は下回ったものの、景況感の境目である50を引き続き超えていることで緩やかな回復が示唆され、プラスの印象でした。

一方、中国国家非製造業PMIは53.6と、こちらは市場予想の53.5や4月実績の53.2を共に上回りました。中国は世界に先駆けて新型コロナウイルスの感染拡大が収束したわけですが、経済がそれなりに回復してきていることが示唆される経済指標は株式市場にとってもプラスです。

ちなみに中国で開発中の新型コロナウイルス感染症ワクチンの候補が、年末にも市場に投入される見通しであると中国国務院の国有資産監督管理委員会が発信しております。こちらも実現すれば新型コロナウイルスの第2波襲来の懸念は後退します。

全人代では期待されていたほどの財政政策は発表されていません。それでも必要になれば経済の安定化に向けた新たな政策を導入し、今年のプラス成長を目指す方針が伝えられています。目先は米中対立が懸念材料となり、特に香港株は軟調な動きとなりそうです。

米国による香港の優遇措置の撤廃の詳細はこれから決まっていくことになります。厳しい内容であれば、米国企業にも影響してくるので、どこまでの内容になるのか注目があつまるところです。

香港には米国企業が約1,300社あり、香港は米国にとって最大級の貿易黒字の相手国でもあります。また、香港の輸出に占める米国向けのシェアは8%でそのうち8割方は中国製造品の再輸出であり、ここにはすでに対中制裁関税はかかっているので、輸出に関する影響は小さいと考えられます。

今後の行方を見守りながら、優良銘柄が大きく下落したところなどでの購入を検討して行きたいところです。