ここまで国内でのアクティビストの動きを取り上げてきました。いずれの会社も大きな会社ではありますが、たとえば前田道路(1883)で時価総額は約2000億円、サン電子(6736)や芝浦機械(6104)は時価総額が1000億円に満たず、日本を代表する会社とまでは言い切れないのが正直なところでしょう。
一方、米国では多くの大企業がアクティビストの提案を受けています。これまでもお伝えしてきたアクティビズムの変化がそれを可能にしています。つまり、アクティビストは会社をよくするための正しい提案をしていれば、より正確には既存の株主がそれを正しい提案と認めれば、自らの保有する株式は少数であっても会社に意見を通すことができ、経営の改善や株価上昇を期待できるのです。米国では、マイクロソフト、GE、デュポン、ペプシコ、イーベイ、ダウケミカルといった日本でも有名な会社にアクティビストが投資しています。その結果、アクティビスト側が取締役を送り込む、会社が重要な経営判断を行う、といったことも少なくありません。
代表的なのは米国の代表的なアクティビストであるバリューアクトによる、コンピュータソフト大手アドビへの投資でしょう。アドビはクリエイター向けのソフトウェア開発を中心とした会社で、製品として「フォトショップ」と呼ばれる画像編集ソフトなどが有名です。また、書類ファイルのPDFやその閲覧ソフトであるアクロバットなどをご存じの方も多いと思います。ウェブサイトへのアクセスの解析などウェブマーケティングのシステムも開発しています。時価総額は約20兆円(2020年5月11日現在)ですから、日本の会社でいうとトヨタ自動車(7203)級です。
バリューアクトはアドビに投資し、同社のビジネスモデルを抜本的に変えることを求めます。内容はソフトの売り切りから課金型ビジネスへの転換でした。収益がぶれやすい売り切りから継続課金に転換することで、サブスクリプション型の安定した経営にすることを志向したのです。結果として転換は成功し、アドビはさらに成長、株価も大きく伸びました。トヨタ自動車級の会社の経営を転換させる、米国のアクティビストの底力を感じさせられます。この例は、まさに市場のダイナミズムを企業経営の場に持ち込んでいると言えるでしょう。
米国のアクティビストは日本での活動も強化しています。先に挙げたバリューアクトはオリンパス(7733)に取締役を送り込みました。また、同じく米国の有力アクティビスト、サードポイントはソニー(6758)に投資し、同社に半導体事業の分離などの経営改善を求めています。これらは国内でも大きく報道されたためご存じの方も多いでしょう。
そして今、バリューアクトが日本を代表する会社に投資を始めたことが話題になっています。その投資先は任天堂(7974)です。次回はバリューアクトと任天堂の関係についてみていきましょう。