OPECプラスが過去最大の原油協調減産で合意

4月12日、OPECプラスは2020年5月から2ヶ月間、最大日量970万バレルの協調減産で最終合意した。OPECプラスはサウジアラビアやロシアら20カ国で構成される産油国の集まりで、原油生産量は世界の約4割超を占める。また、この合意とは別に、米国、カナダ、ブラジルなどOPECプラス以外の産油国が日量500万バレルの減産に寄与する見通しと報じられている。

3月6日のOPECプラス減産協議決裂と新型コロナウイルスの感染拡大に伴う石油需要の激減観測を受けて、原油価格は一時2002年以来の安値まで下落した。果たして、この合意によって原油価格は上がるのだろうか。

【図表1】WTI原油価格の推移(ドル/バレル)
出所:Refinitivのデータを元に丸紅経済研究所作成

原油価格の反発が鈍い2つの理由

現状、OPECプラスとそれ以外の産油国合計で、日量約1,500万バレルの原油生産が削減に向かうとの観測だ。これは世界生産量の約15%に及ぶ膨大な量となる。しかし、現時点では原油価格は上がっていない。その理由は2つある。

第1に、新型コロナウイルスの影響に伴う原油需要の減少観測が、15%の減産以上に膨大な点だ。都市封鎖や移動制限、社会的距離政策などによる経済活動の鈍化により、物流や人の移動、生産活動に必要な原油需要の大幅な減少が予想されている。その減少量は、一時的に日量2,000万から3,000万バレルに上るとの見方が多い。これは世界需要の2割から3割に相当し、15%の減産では相殺しきれない。

第2に、提示された量の減産が遵守されるか、という点だ。OPECプラスは2020年3月末まで減産をしておりその時の減産約束量は日量210万バレルだった。対して、OPECプラスが合意した2020年5月から6月の減産量は日量970万バレル。しかし、実際は日量210万バレルの減産でさえ難しく、2020年1月時点で減産量を達成したのは20カ国中7カ国のみだった。

もっとも、この時はサウジアラビアが自身に課された削減量以上の減産を行っていたため、OPECプラス全体の減産遵守率は99%と高かった。しかし、今回サウジアラビアに要求されている減産量は、日量90万バレルの減産を達成していた1月の生産量からさらに日量125万バレルを削減するという厳しいものだ。

同国に他の国の分まで削減し販売シェアをさらに落とす戦略をとる余裕があるとは考えにくい。また、OPECプラス以外の産油国によって示された日量500万バレル程度の減産は、時間軸が示されておらず、いつになるかも不明である。

合意された量の減産は簡単ではない上、十分ではない。こういった見方から、過去最大の減産合意にも関わらず、原油価格の上昇は限定的になっているものと思われる。

原油生産量は減る、しかし「いつ」かが問題

もっとも、原油生産量はある程度は減ると考えられる。第1の理由は、産油国の財政事情だ。IMFによると、財政均衡に必要な価格はサウジアラビアで1バレル当たり85ドル、他のOPEC諸国も軒並み50ドル以上。歳入の石油収入依存度も高く、WTIで20ドル台という低価格が続けば財政的に立ち行かなくなるため、価格の下支えは必須となる。

また、原油は新規開発だけでなく、既存油田の生産を維持するためにも設備投資が必要だ。歳入減少により石油の開発投資に十分な資金を投入することが難しくなれば、減産合意がなくても生産量が減少に向かった可能性がある。

もちろん、歳入減少に対しては生産減少ではなく数量で補う選択肢もあった。事実、3月6日のOPECプラス減産協議決裂後、サウジアラビアやロシアは大幅増産を打ち出した。しかし価格下落に耐えられず、今回の減産合意で価格維持に方針を変更したと見られる。

OPECプラス以外の産油国の減産は、前述の通り時間軸が示されておらず、なおさら投資の減少による生産量の自然減を待つ可能性が高そうだ。米国エネルギー情報局(EIA)は4月の月報で、2020年末の米国の原油生産量は2019年末に比べて日量約170万バレル減少するとの見通しを示した。

また、原油価格下落を受けて石油メジャーや国営石油企業の多くが開発投資の削減を発表している。(注1) もともと需要ピーク(注2)や脱炭素社会への対応で化石燃料投資に対して逆風が吹いており、低価格が投資の減少を加速させる可能性もあるだろう。

原油価格の低迷が続けば、原油生産量が減少することはほぼ間違いないと考えられる。しかし、日量1,500バレルはあまりにも膨大な量であり、5月の達成は現実的ではなさそうだ。

原油価格は上がるのか?

結論から言えば、原油価格は上がるだろう。ただし、短期的には難しく、上値も限られそうだ。新型コロナウイルスの感染拡大防止策の影響で需要減少がどこまで拡大するかは不透明で先が見えず、場所の確保が難しいほどに在庫は積みあがっている。石油の貯蔵タンクは5月末か6月のはじめには新たな受け入れができなくなるとの観測であり、海上で保管すべく大型タンカーを手当てする動きもある。

しかし、WTIで20ドル台という低価格で採算が取れる新規の原油生産プロジェクトは極めて少なく、価格の低迷が続けば生産側の調整は避けられない。地政学リスクなどに起因する突発的な生産途絶も常に原油価格の上昇要因として存在する。しばらく原油価格には下押し圧力がかかると見られるが、WTIが1バレル20ドル台を抜け出すのは、案外早いかもしれない。

 

(注1) 2020年4月1日付けのロイターの報道によると、石油メジャーと国営石油会社9社が発表した2020年の設備投資削減額の合計は、当初計画の22%に相当する380億ドルに及ぶ。またノルウェーの調査会社リスタッド・エナジーは、米国シェール開発企業の設備投資額は2019年に比べて430億ドル減少し、前年の6割に留まると予想している。
(注2)    石油の需要ピークについては、拙稿、「需要のピークオイル論、石油需要のピークは本当に近いか? 2013.10.01」をご参照ください。


コラム執筆:村井美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所