スーパー・チューズデーでバイデン前副大統領が躍進

2020年11月3日に行われる米大統領選挙に向けて、予備選挙が本格化している。各民主党候補が7月にウィスコンシン州ミルウォーキーで開催される民主党の全国党大会で指名を受けるために、州ごとに割り当てられた代議員を取り合い、しのぎを削っている。

民主党候補指名争いの予備選挙が集中する序盤の火曜日である3月3日のスーパー・チューズデーでは、バイデン前副大統領が躍進した。

【図表】民主党立候補者の獲得代議員数
出所:各種報道を基に丸紅経済研究所にて作成 ※2020年3月5日9:00(日本時間)時点の暫定的な数字

バイデン氏の息子のウクライナ疑惑があったが…

スーパー・チューズデーの前日までは、トランプ米大統領にとって悪くない展開だったと言えるだろう。なぜなら、2020年11月3日の本選挙で「トランプ米大統領に勝てる」民主党候補と言われていたバイデン前副大統領が、序盤のアイオワ州で屈辱の4位、ニューハンプシャー州でも5位と失速するなど精彩を欠いていたからだ。

この背景には、ウクライナ疑惑も1つの要因としてあるだろう。発端は、トランプ米大統領が、今年の米大統領選挙のライバルになるバイデン前副大統領をおとしめるため、ウクライナの大統領にバイデン親子を捜査するよう圧力をかけたという疑惑である。

民主党は、トランプ米大統領が自らの政治的利益のためにウクライナに圧力をかけ、議会による調査を妨害したとして弾劾訴追した。

ところが、ウクライナ疑惑がニュースになったために、バイデン前副大統領の息子がコカイン使用で海軍を除隊となったことや、その後ガス事業の経験が無いにもかかわらずウクライナのガス会社の取締役に就任したこと、そして息子自身が「副大統領の息子でなかったら取締役には就任していなかっただろう」と述べ、そのウクライナのガス会社から毎月5万ドルという破格の給料を貰っていたことがニュースで繰り返し流れることになったのである。

さらに弾劾裁判でトランプ米大統領が無罪となったため、民主党が主導した弾劾裁判によって、皮肉にも”Middle Class Joe”として中流階級の味方を自認するバイデン前副大統領がダメージを受けてしまったという見方さえ出てくるようになった。

バイデン氏が民主党指名候補となれば弾劾裁判が蒸し返される

バイデン前副大統領の序盤の苦戦を受けて、スーパー・チューズデーではサンダース上院議員が有利だと見られていた。しかし、バイデン前副大統領は息を吹き返し、獲得代議員数で首位に躍り出た。理由は、中道派でバイデン前副大統領と競っていたブティジェッジ前市長とクロブシャー上院議員がスーパー・チューズデーの直前に撤退し、バイデン前副大統領を支持する考えを明らかにしたからである。

2月29日に開催されたサウスカロライナ州の予備選挙で、非白人層からの厚い支持を得てバイデン前副大統領が圧勝したことを受け撤退を決めたとされる両候補だが、一方のトランプ米大統領は「ブティジェッジ前市長とクロブシャー上院議員が、バイデン前副大統領と取引をした。お互いのメリットを分け合ったんだ。弾劾してやれ。奴らは弾劾されなければならない」と支持者に訴え、バイデン前副大統領の躍進に不快感を示した。

民主党の候補者指名争いは今後も続き、その後もトランプ米大統領との一騎打ちが待っている。先行きはまだまだわからないものの、1つ分かっていることはバイデン前副大統領が民主党の指名候補となった場合、トランプ米大統領が弾劾裁判を蒸し返し、ネガティブキャンペーンを行う可能性が高いということだろう。

弾劾訴追が、民主党のトランプ降ろしの戦略において正しかったのか裏目に出てしまうのか。今年の米大統領選挙は、弾劾裁判に始まり弾劾騒ぎに終わるのかもしれない。

 

コラム執筆:重吉 玄徳/丸紅株式会社 経済研究所 アナリスト