米大統領選の投票は、11月3日で終了した。しかし、11月3日までの消印のある郵便投票については一定期間受け入れることを認めている州があるなど、一部の州で最終結果の確定が遅れている。

それらの殆どが僅差での勝敗決定が予想される激戦州であるために、獲得選挙人数の差が僅差であるうちは、最終結果を巡って争いが続く公算が高まっている。バイデン氏は、11月8日に勝利宣言を行ったが、トランプ米大統領は法廷闘争を主張しており、敗北宣言が出ていない異例の事態となっている。

政策転換への警戒感

トランプ米大統領とバイデン氏の政策には、減税と連邦政府の財政政策(景気刺激策)、企業の活動規制という面で、大きなスタンスの違いがある。トランプ米大統領は過去4年間に進めてきた税制改革では特に減税を好み、企業活動においても基本的には自由で規制を嫌う傾向を見せてきた。

一方、バイデン氏は法人税の引き上げや相続税の控除額を引き下げ、実質的に富裕層課税を強化することを目指している。ほかにも、デジタル産業で急速に成長したGAFAなどによる市場支配を反トラスト法の適用により制限する議会民主党の動きを容認すると考えられ、市場では、こうした点が気がかりとされていた。

当初は米大統領選で民主党のバイデン氏の勝利に加えて、議会選挙で上下両院とも民主党が躍進して過半数を握り、政策展開での主導権を握るという「ブルーウエーブ(民主党の圧勝)」シナリオがあった。民主党主導になれば、これまでの政策は大転換されるという警戒感がつきまとっていた。

懸念和らぎ、楽観的な見方が一段と強まる可能性

しかし、議会選挙では、上院で共和党が辛くも過半数を維持する可能性が高まり、バイデン大統領誕生となっても、追加経済対策で大盤振る舞いされる可能性は低下したと言えるだろう。

また、独占禁止(反トラスト)を盾に、デジタル産業への規制を検討していた民主党の主張は、共和党の上院支配により抑制されることも考えられる。そうなると、株式相場における懸念は和らぎ、楽観的な見方が一段と強まる可能性が出てきている。

トランプ米政権の政策からの大転換の可能性が縮小し、マイルドで中道的な政策に収斂することがシナリオとして浮上してきたことは、ポジティブな要因だろう。米国の選挙民が意図せざる結果として、こうした中道的な政治状況を選択したことは、個人的にもとても興味深い。

バイデン大統領誕生の市場への影響

どうやらバイデン大統領の誕生の公算は高まったが、バイデン氏の政策綱領で見ると、より大きな規模の追加経済対策パッケージが打ち出されることと、大企業を中心とする規制が強化される方向に進むことが予想される。そうなると、株式相場では、大型ハイテク株やグロース株よりバリュー株が選好されるのではないか。資本財など景気循環株も恩恵を受けると予想する。

また、米国がパリ協定に復帰し、2050年までに温暖化ガスの排出量ゼロを目指すことがすんなりと決まれば、環境関連銘柄や省電力化技術を持つ企業は恩恵を受けるだろう。機械や電子部品などの技術にも注目が集まり、恩恵を受ける可能性がある。日本株にもプラスに働くのではないか。

規制を強化するという民主党の政策の方向感からすると、主要デジタル産業や金融機関への規制は強まると考えられる。そうなると、2020年の株価の回復を牽引したGAFAなど主要デジタル産業銘柄は相対的にはマイナスの力が働くと考えられている。金融業界にとっても、銀行に自己勘定でのリスクテイクを禁止するドッド・フランク法の再強化や、銀証分離を定めたグラス・スティーガ ル法の復活が想定され、株価への抑制要因となることが懸念される。

ただ、金利上昇と利回り曲線のスティープ化は、金利収入の増加に繋がり、収益機会を増す要因となるため、銀行や保険セクターにとってプラス要因になり得ることには注意しておきたい。また規制の動きは、議会の勢力図がスプリット(上院は共和党が多数、下院は民主党が多数)する状況から、急進的にならない可能性もある。そうだとすれば、株価にとっては、より望ましいシナリオとなる可能性がある。
また上述の通り、バイデン氏のもとでは一定の増税が想定される。特に、トランプ米政権下で2017年に実施された税制改革法により企業や富裕層が恩恵を受けた事実上の減税は、撤廃される可能性が高い。

バイデン氏のウェブサイトによると、有給の介護休暇や療養休暇の財源を確保するため「相続税を2009年の水準に戻す(=増税する)」方針が掲げられており、1158万ドルの相続税非課税枠が2025年の期限切れを前に549万ドルに引き下げが提案されるだろう。

また、キャピタルゲインへの課税も、個人所得100万ドルを超える納税者に39.6%の税率を適用することが盛り込まれている(現在は個人所得44.145万ドル以上の納税者に20%を上限とする税率が段階的に適用されている)。

増税は、1~2年程度の期間にわたり株価への抑制要因となることが過去の経験則から言える。ただ、今回は景気回復への期待感を増幅する効果が先に出るだろう。
今回の議会選挙の結果は、先述の通り議会上下院の勢力図がスプリットした状態となる可能性が高まっている。上院の一部選挙は決選投票に持ち込まれ、1月上旬まで不透明だが、共和党の優位が伝えられている。

この場合、すんなりと法案が議会を通過しない状況に陥ることになり、大統領と下院を抑えた民主党に共和党が一定の歯止めを掛けることになる。すなわち、政策の大転換が起こる可能性が低下する、もしくは時間が掛かるようになることが考えられる。そうなると、やはり追加経済対策の効果としての景気回復の期待が先行するだろう。

金利は、ある程度巨額な規模での財政支出が見込まれるので、国債の発行量が増加し、金利は上昇方向への力が高まるのではないか。FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策は短期金利をゼロのまま維持することは、数年間は間違いないだろうが、長期金利への上昇圧力はより強くなると見込まれる。特に2021年半ばあたりから、景気回復の勢いが出てくる局面では、長期金利の上昇、利回り曲線のベア・スティープ化に注意しておきたい。

為替については、外交政策の不確実性の低下や、米中緊張関係の緩和が期待できることから、米ドル高の調整としてのユーロ高や人民元高が進行する可能性が高まるだろう。ただし、米国経済の回復が確実性を増し、金利が上昇するに連れ、米ドルを支える要因となるため、大幅な米ドル安は予想しない。米ドル/円相場については、105円を下回る時間帯はあるだろうが、突っ込んだ円高にはドル買いで望みたいと考えている。