2度あった共和党から民主党への政権交代

米大統領選挙を受けて、共和党・トランプ政権から民主党・バイデン政権へ交代する見通しとなってきた。ちなみに、1980年以降で、共和党から民主党へ政権が交代したのは、1993年のクリントン政権と、2009年のオバマ政権の2回だった(図表参照)。この2回に共通したこととして、為替相場で強烈な円高が起こり、また日本の政権は一年以内に崩壊に追い込まれたということがあった。

【図表】1980年以降の米大統領選挙
出所:マネックス証券が作成

まずは1993年からの民主党・クリントン政権について。1993年1月に1米ドル=125円程度だった米ドル/円は、1995年4月にかけて80円まで、つまり2年余りで約36%も下落した。また、このクリントン政権発足時の日本は自民党・宮澤内閣だったが、1993年8月で終了となった。

次に2009年からの民主党・オバマ政権について。「リーマン・ショック」の大混乱の中で始まったオバマ政権だったが、2009年1月に1米ドル=90円程度だった米ドル/円は、一時100円程度まで戻したものの、その後は2011年10月75円まで、約2年9ヶ月で最大25%程度の下落となった。また、オバマ政権発足時の日本は麻生内閣だったが、同年9月に終了となった。

以上のように、これまでの共和党から民主党への政権交代が起こった2例では、新政権スタートから2年以上円高が続き、その中で米ドル/円は2~3割下落していた。そして日本の政権は一年以内に崩壊に追い込まれた。このパターンが今回も繰り返されるなら、2023年にかけて70~80円まで円高(米ドル安)が続き、一方で現・菅政権は2021年中に終焉を迎えるといった見通しになる。

米ドル/円は2年以上で2~3割下落した

ところで、1993年から民主党・クリントン政権が始まり円高となったのは、政策的に意図した結果だったと考えられる。当時は、1989年ベルリンの壁崩壊に象徴された東西冷戦終了を受けて、米政府は経済的な不均衡是正を最優先課題とした。

大統領選挙中に、クリントン候補が語った「It's the economy, stupid!(問題は経済だということがわからないのか、愚か者)」という言葉はまさにそれを象徴するものとして理解されている。そして、大統領就任後初めて行われた日米首脳会談で、クリントン大統領は、「日米貿易不均衡是正に第一に有効なのは円高」とじつに直截的に発言した。

これに対して、オバマ政権は、上述のように2008年9月、大手投資銀行、リーマン・ブラザーズ経営破綻をきっかけとして起こった「リーマン・ショック」の大混乱が広がる「100年に一度の危機」の中で、2009年1月からスタートした。

FRB(米連邦準備制度理事会)は2008年12月にはゼロ金利政策を決定、さらに2009年3月からQE(量的緩和)を始めるところとなった。こういった中で、低金利で大量に溢れた米ドルが売られた結果が、米ドル/円の大幅な下落をもたらしたと考えられる。

以上のように見ると、民主党への政権交代の後、大幅な円高となった点では共通するものの、クリントン政権時代は政策的な円高誘導に動いたのに対し、オバマ政権時代は「100年に一度の危機」からの脱出を目指した経済政策の結果として円高が起こったということで、プロセスには大きな違いがあった。

単純に比較すると、バイデン新政権を取り巻く状況は、クリントン政権より明らかにオバマ政権のそれに近そうだ。つまり、政策目標として円高誘導に動くのではなく、いわゆる「コロナ・ショック」対策の経済政策、FRB(米連邦準備制度理事会)のゼロ金利政策や米ドル資金の大量供給が、結果としてどれだけ米ドル安・円高をもたらすことになるかという観点が基本だろう。

民主党政権発足から日本では一年以内に政権崩壊

これは、日本の政治への影響という点でも同じかもしれない。上述のように、1993年からクリントン政権が始まると、その年の夏には自民党一党独裁体制の終焉、非自民・細川連立内閣誕生といった政治改革が起こったわけだが、これはクリントン・民主党政権がそれを望んだ結果のようでもあった。

クリントン政権から見ると、日米貿易不均衡是正の障害の一つが既得権益者の抵抗と映っていた感じがあった。その意味では、守旧派の追い出し、改革派と連携することも、貿易不均衡是正の優先課題の一つと位置付けられていた可能性があった。

これに対して、オバマ政権時代の日本の短命政権の連続は、それ以前の小泉長期政権時代の反動と、そして2007年から信用バブル崩壊、リーマン・ショックと続いた「100年に一度の危機」の影響が大きかっただろう。

以上のように見ると、今回の米国における民主党への政権交代でも、日本で短命政権となるかは、クリントン政権時代よりオバマ政権時代の経験が参考になるのではないか。「リーマン・ショック」をも上回るとされるコロナ禍の経済不安の中で、安倍長期政権後の日本の政治がどこまで機能するかが問われるということではないか。