アップルは1兆ドルクラブのトップランナー

先月、グーグルの親会社であるアルファベット(ティッカー:GOOGL)の時価総額が初めて1兆ドル(約110兆円)を超えた。これまで米国株においてアルファベット以外で時価総額が1兆ドルを超えた米国企業はアップル(ティッカー:AAPL)とマイクロソフト(ティッカー:MS)、そしてアマゾン・ドットコム(ティッカー:AMZN)である。

これら4社がS&P 500株価指数に占める割合は約15%で、その巨大な規模ゆえに相場全体の方向性にも大きな影響を与えている。

中でもアップルの株価は2019年1月のアップルショックの時点では150ドルを割り込んでいたのが、今や倍以上となる300ドルを超える水準まで上昇している。2月7日時点の時価総額は1兆4002億ドルと再び時価総額世界最高水準となっている。なお、1兆ドル(約110兆円)というと、日本の1年間の国家予算ぐらいであり、そのレベルの企業が米国には4社あると言うことになる。

そのアップルが先月末に発表した昨年10~12月(第1四半期:アップルの決算期は9月末)の決算は、「iPhone」の需要が回復したことや「AirPods」(ワイヤレスイヤフォン)などのウェアラブル端末の販売増加が追い風となり、売上高は918億ドル(約10兆円)と市場予想(アナリスト予想平均は884億ドル)を上回り、前年同期比で9%増加した。

ティム・クック最高経営責任者(CEO)は28日、最新アイフォーンに「旺盛な需要」が見られたと述べ、15億台を超える端末ベースが同社の全体的な成長の大きな原動力になっていると指摘した。
(ブルームバーグ2020年1月29日「iPhone需要が回復、アップル10ー12月期売上高が市場予想上回る」)

アップルの決算発表資料からカテゴリー別売上高を見てみよう。「Mac」と「iPad」の売上は前年比で減少している一方、「iPhone」は7.6%増加と好調。さらに「Wearables, Home and Accessories」は約37%の増加、「Service」は約17%増と大幅な伸びを示している。

●アップルのカテゴリー別売上高

好業績を背景にアナリストの投資判断も堅調である。以下の表はアナリスト41人によるアップルの格付けと目標株価を示したものである(2020年2月9日現在)。半年前にはコンセンサスレーティングスコアは2.46、目標株価のコンセンサスは約215ドルであったが、足元ではそれぞれ2.56と約313ドルまで上昇しており、41人のアナリストのうち26人が「買い」のレーティングをしている。

●アップルの格付けと目標株価

アップルが世界最高水準の時価総額企業である理由

アップルを時価総額世界最高水準たらしめている要因は2つある。1つは魅力あるプロダクトとサービスそしてビジネスモデルからもたらされる収益性の高さ。そしてもう1つはその高い収益性を背景とした強固な財務体質から実施される株主還元にある。

高い収益性と強固な財務基盤の2つは企業のあるべき姿としてどの企業も追求しており、ごく当たり前のことと思われがちであるが、これを実際に体現できている企業は決して多くはない。

以下は1兆ドルクラブ4社の売上高、営業利益、そして営業利益率をそれぞれ比較したものである。

●1兆ドルクラブ4社の売上高の推移

出所:筆者作成

●1兆ドルクラブ4社の営業利益の推移

出所:筆者作成

●1兆ドルクラブ4社の営業利益率の推移

出所:筆者作成

いずれの企業も素晴らしいパフォーマンスであるが、中でもアップルの売上高はアマゾンの猛追もあり首位の座から陥落したものの、10年弱の間、他社を大きく上回ってきた。一方、営業利益の規模は他社を圧倒している。そして営業利益率は30%前後と、マイクロソフトに次いで高い水準となっている。

アップルの特徴である高い収益性と強固な財務体質について、2回に分けてお届けしたい。高い収益性を実現する背景には何があるのか、これは次回に譲るとして、今回は財務体質から実施される株主還元について取り上げる。

自社株買い以上に企業価値を向上させているアップル

アップルの財務体質で特筆すべき点といえば、その手元資金の潤沢さであろう。アップルは長らく、手元資金保有額トップを独走していたが、2013年に著名投資家のカール・アイカーン氏がアップルに対し株式公開買い付け(TOB)を通じて自社株買いを行うよう求めたことをきっかけに、株主還元を積極化させ手元資金の圧縮に取り組むようになった。

2019年4月には総額750億ドルの自社株買い枠を追加したほか、四半期配当を5%引き上げることを発表した。

次のグラフはアップルの発行済み株式数と時価総額の推移を示したものである。2013年以降、自社株買いを実施し、株数は減少傾向にあることが見て取れる。その一方、時価総額は上昇しており企業価値が向上している。自社株買いによって株数が減少すれば、需給が引き締まり、EPSが上昇するため、株価はその分値上がりするのは当然の帰結である。

昨年のアップルの株価反騰の背景には大規模な自社株買いがあったことは否めない。実際に去年1年間で780億ドル、日本円にすると8兆円を超える規模の自社株買いを実施した。

●アップルの株数と時価総額の推移

出所:筆者作成

しかしアップルの企業価値向上は、自社株買いによってもたらされた株価上昇だけによるものではない。アップルの発行済み株式数は2013年に65億2200万株だったのが、2019年には46億4900万株と約28%減少した。

これに対して、時価総額は2013年の5227億1025万ドルから、2019年には1兆3651億7885万ドルと約61%増加している。つまり需給だけでは説明できない企業価値向上が果たされているのである。

マーケットではコロナウィルスの影響が実際のビジネスにどの程度広がっていくのかが懸念されている。ブルームバーグの報道によると、アップル製品の生産を請け負うフォックスコン(ホンハイ)は中国・深圳の拠点に勤務する従業員に対し、延長した春節(旧正月)の休業が明ける10日は職場に戻らないよう指示したとも伝えられている。さらにアップルは中国に展開する42店舗全てを2月10日まで閉鎖すると発表していたが、閉鎖は延長され、店舗によっては15日まで続くと言う。

今後の影響については見守る必要があり、次回後編でもアップデートした情報をお伝えしたいと考えている。また、今回取り上げた単なる自社株買いに頼らない企業価値の向上がなぜ実現可能なのか、その背景にある高い収益性について取り上げていく。

石原順の注目5銘柄

今週は1兆ドルクラブの4社と、アップル株を買っているウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイ株をとりあげた。

アップル(ティッカー:AAPL)

出所:トレードステーション

マイクロソフト(ティッカー:MS)

出所:トレードステーション

アマゾン・ドットコム(ティッカー:AMZN)

出所:トレードステーション

アルファベット(ティッカー:GOOGL)

出所:トレードステーション

バークシャー・ハサウェイ クラスB(ティッカー:BRK.B)

出所:トレードステーション


日々の相場動向については、ブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。

 

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