株価急騰、テスラのビジネスモデルは何が違うのか?

今回は電気自動車メーカーのテスラ(ティッカー:TSLA)を取り上げたい。ご存知のように、テスラのCEOであるイーロン・マスク氏は「人類を火星に移住させる」という計画の実現を目標に掲げ、2002年にスペースXを設立、宇宙へ行くためのロケット開発も手がけている。

テスラにはもともと投資家として出資しており、2008年から経営に参画した。週に80〜100時間働くとも言われているマスク氏は、シリコンバレーを代表するリーダーの1人として世界的に著名であると同時に、そのお騒がせな言動で世間からの注目を浴びることも多い。

そんなテスラがこのところ株式市場で大注目を浴びている。株価は去年10月下旬から急反発し、1月24日には一時573ドルまで上昇、去年6月につけた安値179ドルに比べて3倍超の水準まで値上がりしている。反転のきっかけとなったのは、2019年10月23日に発表された第3四半期の決算であった。生産効率の大幅な向上により、市場予想に反して3・四半期ぶりの黒字に転換した。

●テスラ(日足)

出所:トレードステーション

また、1月3日には2019年第4四半期のEV販売台数がこちらも市場予想を上回り、自社目標を達成したと発表した。テスラをショートしていた主体は買い戻しを余儀なくされ、株価の上昇に弾みがついた。

懸念されていた主力小型車「モデル3」の生産体制が整い始めた他、海外販売が上向いたことも要因だった。また、2019年通年の販売台数は約36万7500台と、自社目標(36万〜40万台)を達成した。

インベストペディアの記事「What Makes Tesla's Business Model Different?(何がテスラのビジネスモデルを差別化しているのか?)」によると、イーロン・マスク氏は「魅力的な電気自動車をできるだけ早く市場に投入することで、持続可能な輸送の到来を加速させる」という使命を持ち、このミッションはテスラのビジネスモデルのバックボーンとして機能してきたとしている。

テスラのアプローチはとてもユニークだと言う。大量生産や市場投入がしやすい比較的手頃な価格の車を作ろうとする代わりに、人がどうしても買いたくなる車を創造するということにフォーカスしたのである。

マスク氏によると「われわれの最初の製品はどんな外見であろうとも高価であるべきで、スポーツカーを作ることに決めた。それはガソリン車の代替えとして最も競争力がある可能性があったからだ」とのこと。

競合と差別化されるテスラ3つのビジネスモデル

テスラのビジネスモデルは、「直接販売」「ソフトウェアサービス」「充電ステーション」の3つのアプローチよって他の自動車メーカーと差別化されている。

まずは直接販売である。ディーラーを通じて販売する他の自動車メーカーとは異なり、テスラはインターネット上で直接販売を行っている。消費者は、好きな時にオンラインでテスラ車をカスタマイズし、購入することができる。また、世界の主要都市の中心部においては、自社のショールームやギャラリーのネットワークを自分たちで作り上げている。

米国における一般的な自動車ディーラー店は、複数の自動車メーカーの車を扱っており、あの手この手で自分たちの売りたい車を押し付けることもあるようだ。一方、自動車メーカーは、透明性の高いネット販売に乗り出したくても、既存ディーラーによる縛りが強く、実際には乗り出せない事情があると聞く。

しかしテスラの場合は自社で販売チャネルを一から作り所有しているため、そうした縛りもなく、消費者本位の販売が可能となるのである。販売網における革命である。

次にソフトウェアサービスについて。これによって車の性能は大きく変わった。ソフトウェアのダウンロードにより、データをアップロードし、メカニックが物理的に車に触れることなしに、オンラインでいくつかの問題を診断し解決することができる。何か車に不具合や問題があれば、ソフトウェアをダウンロードすれば性能をすぐに改善させられることができ、便利な機能も日々新たに追加されるのである。

テスラを保有する顧客からのデータをもとに自社のニューラルネットワークを常に進化させている。車に搭載されたセンサーからのデータはもちろんのこと、日々の運転中に発生するすべてのイベントがデータとして送信され、ニューラルネットワークを駆動するアルゴリズムの改善に使われる。

進化するアルゴリズムは慎重に実車条件でテスト・検証された後、各々のテスラ車にアップロードされ、性能や安全性がソフトウェアの更新によって向上していく。

3点目は充電ステーションのスーパーチャージャーネットワークである。テスラは、ドライバーが無料で、しかも約30分でテスラ車を完全に充電することができる、スーパーチャージャーステーションのネットワークを独自に作り上げた。これらのステーションを自ら建設し、自社で所有する背景にはEV普及のネックとなる充電に関する不安や不満を取り除き普及をスピードアップさせる狙いがある。

A Closer Look At Tesla's Supercharger Network(テスラのスーパーチャージャーネットワークの詳細)」によると、世界のスーパーチャージャーの充電ポイントの総数は、2018年第1四半期の約9,300から、2019年第3四半期には約14,700に増加したと言う。

今後の成長のキーとなるのは中国市場と環境規制

テスラの時価総額(1月24日時点)はビッグ3(ゼネラル・エレクトリック、フォード・モーター、フィアット・クライスラー・オートモービルズ)を大きく引き離している。今後、この時価総額に見合う成長を成し遂げていくためのキーとなるのは中国市場の開拓と環境規制の2つにあると考える。

中国においては先日、上海のギガファクトリーで生産されたモデル3が初めて納車された。工場の着工からわずか1年であった。現在の生産ペースは週1,000台程度であるが、週3,000台程度の生産能力があり、将来的には、年間50万台まで生産ペースを高める計画である。

出所:筆者作成

テスラが中国国内で製造する「モデル3」については、中国政府の補助金の対象となっており、世界最大のEV市場で、戦略的な価格設定とともに売上はさらに拡大していくことが想定される。

ブルームバーグの報道によると、中国国内での販売価格約5万ドル(約540万円)に対して、中国政府から大約2万5000元(約38万6000円)相当の補助金が受けられる見通しである。

●上海のギガファクトリー

そして環境規制である。テスラの決算資料によると、売上の細目は「Automotive sales(電気自動車の販売)」「Automotive leasing(電気自動車のリース事業)」「Energy generation and storage(エネルギー発電と貯蔵製品)」「Services and other(サービス、その他)」の4つであるが、実はもう1つ重要な収益源がある。「Regulatory Credits(規制クレジット)」だ。

米国の自動車メーカーは規制によってゼロエミッションの車を一定の割合で販売することが義務付けられている。販売が規定数に達しない場合、自動車メーカーは違反金を支払うか、他のメーカーから余剰クレジットを購入する必要がある。それが規制クレジッである。

テスラが生産する車は全てがゼロエミッションであるため、テスラは相当量の規制クレジットを確保しており、これをGMやフィアット・クライスラーに販売している。この規制クレジットは、コストがゼロであり、売上がそのまま利益となる打ち出の小槌である。

Cash Flow Based Dividends Stock Screener の記事「How Much Revenue Did Tesla Make From Regulatory Credits?(テスラは規制クレジットからどのくらいの収益を上げたか?)」によると、テスラは2018年に約4億1860万ドル、2017年に3億6030万ドルの規制クレジットを販売した。

2018年の規制クレジット収入は販売開始以来、過去最高を記録した。この規制クレジット収入は2012年のわずか4,100万ドルから2018年のわずか7年でほぼ10倍に増加した。規制クレジットの販売による収益は将来的にわたって増加する可能性は高く、今後もその傾向は続くと見られる。

●テスラの規制クレジット収益(年次)

出所:Cash Flow Based Dividends Stock Screener

一方、全体の売上に占める規制クレジットの割合は2012年の10%から2018年には2%に大幅に低下しているが、これはEVの販売を始め、その他の売上が伸びているためで、テスラの販売が順調に拡大していることの証でもあろう。

●総収益に対する規制クレジット収益の比率

出所:Cash Flow Based Dividends Stock Screener

総合エネルギーテック企業への進化

テスラに追い風となりそうなのが、2021年に導入される予定のEUにおける排ガス規制の強化である。自動車メーカー各社はこの新基準に適合できなかった場合、巨額の罰金を科されることになる。

その一方、新たな測定基準とディーゼル問題の余波、さらには顧客のSUVシフトによって、この新しい規制に適合するのはほとんど不可能だと指摘されている。以下は、この新規制のもと、各メーカーに課されたCO2排出量の目標値である。

出所:AUTOCAR JAPAN

今のところ、2021年のEUの規制をクリアできるのはトヨタ、日産・ルノー、ボルボ、ジャガー・ランドローバーのみとなっており、この4社以外はいずれもGMやフィアット・クライスラーと同様、他社からカーボンクレジットを調達しなければならなくなる。EV製造100%であるテスラにとって、自社のEV販売が増えれば増えるほど、他社に売却可能なクレジットが増加することになるのである。

社名を「テスラ・モーターズ」から「テスラ」に変更したことからもわかるように、既存の自動車メーカーとは一線を画す、業界の変革者であると言える。EVだけではなく、家庭用蓄電池や業務用蓄電池等の関連製品も手がけており、エネルギーテック企業へと進化を続けている。

また、アップル(ティッカー:AAPL)のように、その製品、顧客体験、そしてそのカリスマリーダーに対する憧れ、忠誠心、熱狂を呼び起こすテクノロジー企業である。市場の評価も単なる自動車メーカーとの比較はできないということを示唆しているのかもしれない。

石原順のトレンド5銘柄

経営への圧倒的な熱量!カリスマ経営者の率いる米国株投資の魅力とダイナミズムを象徴するのが以下の5銘柄である。

テスラ(ティッカー:TSLA)

上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ
中段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
下段:売買シグナル 買いトレンド=グリーン・売りトレンド=オレンジ
出所:パンローリングカスタムチャート

マイクロソフト(ティッカー:MSFT)

上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ
中段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
下段:売買シグナル 買いトレンド=グリーン・売りトレンド=オレンジ
出所:パンローリングカスタムチャート

フェイスブック(ティッカー:FB)

上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ
中段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
下段:売買シグナル 買いトレンド=グリーン・売りトレンド=オレンジ
出所:パンローリングカスタムチャート

アルファベット(ティッカー:GOOGL)

上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ
中段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
下段:売買シグナル 買いトレンド=グリーン・売りトレンド=オレンジ
出所:パンローリングカスタムチャート

アマゾン・ドットコム(ティッカー:AMZN)

上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ
中段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
下段:売買シグナル 買いトレンド=グリーン・売りトレンド=オレンジ
出所:パンローリングカスタムチャート


日々の相場動向については、ブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。