とあるアメリカ人女性が参加する火星移住プロジェクト

今週は地球から離れたテーマをご紹介したいと思います。昨年末、うちの家内が知り合いのアメリカ人を介して会った、あるアメリカ人の女性の話をしてくれました。

その女性は、米国の火星に移住するあるプロジェクト・メンバーの候補の1人です。プロジェクトを主催する団体とのNDA(秘密保持契約)があるため、詳しいことは語れないようなのですが、彼女は申し込み者数千名の中から選ばれた100名の中の1人で、将来は火星に移住したいのだそうです。

ただ、彼女たちは今後もっとふるいにかけられ、実際に火星に向かって旅立つミッション1号に参加できるパイロットの数はもっと絞られるようです。少なくとも年に一度は米国でのトレーニングに参加が必要で、毎年彼女はそのために米国へ帰国しているとのことです。

25万ドルで、90分間の宇宙旅行ができる

火星へ移住するほど深刻で大きな話ではなくても、私たちも近いうちにもっと気軽に宇宙へ旅行することができそうです。 ただし、25万ドル(約2,750万円)を払う余裕があればということですが。

アメリカのニューメキシコ州南部に、トゥルース・オア・コンシクエンシーズ(T&C)という人口6,000人くらいの町があります。メキシコの国境の町エルパソまで車で2時間以内の町です。

このトゥルース・オア・コンシクエンシーズという名前、私も最初に聞いて変わった名前だと思いました。この言葉の意味は「正直に答えなければ報いを受ける」という意味だからです。どうも1950年代に米国でトゥルース・オア・コンシクエンシーズという有名なラジオ番組があり、その番組の名前を町の名前にしたら、その町から番組を放送するというような理由で名前が付いたのだそうです。

その町から64キロ離れた地にスペースポート・アメリカという空港があります。そこは、普通の空港ではありません。

民間用宇宙船の発着陸専用の空港で、早ければ今年の年末に実際に宇宙船が離着陸することになりそうなのです。

ただし、その宇宙船の1回の飛行時間は約90分で、宇宙に滞在するのは5分だけなのですが、その旅行代は約25万ドル(約2,750万円)。

その旅を可能にしてくれるのが昨年10月28日にニューヨーク証券取引所に上場したヴァージン・ギャラクティック・ホールディングス(以下、ヴァージン・ギャラクティック NYSE:SPCE)です。

ヴァージン・ギャラクティックは、2004年に設立されたサー・リチャード・ブロンソン氏率いるヴァージングループの商業用宇宙旅行の会社です。同社は、宇宙船の設計、製造、試験から、実際の宇宙旅行の企画、実施まで行う垂直統合型の企業です。

この25万ドルの旅に、現時点で世界50ヶ国以上の国から600人以上からの申込みがあり、同社は既に計8,000万ドルの保証金を受け取っています。

会社のホームページでは、顧客のプロファイルとして33歳の英国の投資銀行家から、エンジニアビジネスを売却してセミ・リタイヤした69歳のアメリカ人の男性などを紹介しています。

加えて約3,600人がこの旅に興味があるとの意思表示をしており、旅行代金は今後徐々に値上がりしていくそうです。

将来の「宇宙飛行士」となる乗客は、まずスペースポートで3日程度の訓練やテストを受ける必要があります。旅の当日、乗客はカスタムメイドの宇宙服に着替え「宇宙船」へ乗り込み、宇宙への旅行が始まります。

宇宙への旅は、ヴァージン・ギャラクティックのホワイト・ナイト2 (WK2)とスペースシップ2 (SS2)の2機によって可能となります。 WK21号の名前は、リチャードブランソンの母親の名前エバ・ブランソンに因んでエバと呼ばれています。

WK2が発射母機となり、その翼の上にSS2が乗ってスペースポートから宇宙へ向かい水平に離陸します。

その後、2機は安全性の確認を行いながら高度45,000フィート(約13.7キロ)まで飛行し、SS2はWK2から切り離されると(ここまでは30分程度)、4Gの加速度でマッハ3を越えるスピードで宇宙へ向かいます。

海面から25万フィート(約76.2キロ)まで達成すると、そこはもう宇宙空間。 ここでSS2のエンジンが止められます(ここまで1分くらい)。

その後、乗客は、シートベルトを外して5分ほど無重力空間を経験します。

SS2には10以上の窓があり、パイロットは乗客から地球がよく見えるようにSS2の位置を調整し、同時に地球に戻るための準備を行います。

その後、空気の抵抗を減らす為に尾翼をたたみ、フェザリングと呼ばれる体勢で大気圏へ再突入。その間3~4倍の重力を経験し、約1時間後には地球へ帰ってくるというスケジュールなのだそうです。

ヴァージン・ギャラクシー以外の宇宙へのベンチャーとしては、アマゾンのジェフ・ベゾスが
2000年に設立したブルー・オリジン、2002年にテスラのイーロン・マスクが始めたスペー
スXがあげられます。

1,000万ドル以上の資産を持つ富裕層がターゲット

ヴァージン・ギャラクティックは1,000万ドル以上の資産を持っている富裕層をターゲットにしています。2018年にその数は世界中で約178万人、2023年には237万人に増えるとみています。集客は宣伝広告には頼らず、フライトを経験した乗客の口コミによって利用者の増加を狙っています。
SS2 1号はパイロット2人によって操縦され、乗客用には6人用の席があるのですが、最初は4人の乗客から始め、2021年には5名に増やし、その後6名に増やす予定です。

会社の発表によると、現在2機の「宇宙船」は、2021年には3機へ、2012年は4機、2023年は5機へと増やす計画です。

また、2020年の年間のフライトの回数は16回、2021年には115回、2022年には170回、2023年には270回を計画し、宇宙への旅を経験できる旅行者の数は、今年の66人から、2021年に646人、2022年には965人、2023年には1,565人となる予定です。

会社による同期間の売り上げ予想は、2020年は31万ドル、2021年は210万ドル、2022年が398万ドル、2023年には590万ドルです。EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前・その他償却前利益)は、2020年は1.04億ドルの赤字ですが、2021年は黒字化し1,200万ドル、その後2022年に1.46億ドル、2023年には2.74億ドルとなる予想です。

コストの構造は、ロケットモーター、燃料費、飛行のコスト、メインテナンスであり、基本は航空会社に似ています。

成長戦略としては、フェーズ1~3までが発表されています。
フェーズ1:現在発表している事業を軌道にのせ、スケールの拡大を行う。
フェーズ2:米国外に宇宙空港を建設し、フライトを飛ばす(現在イタリアとUAEで予定)。
フェーズ3:例えば、東京からロサンゼルスをマッハ3のスピード、2時間半で飛行できるサービスの提供

会社が挙げている同社に対する投資のポイント
1.最初で唯一の宇宙への旅を提供する上場企業
2.顧客としてのターゲットである富裕層の数は今後増えていくとみられる
3.再利用可能、拡張性のあるデザインの機体を使った魅力的なビジネスモデル
4.顧客のニーズはあると確認されている
5.10億ドル以上の投資にサポートされた強い競争力
6.堅調で収益性を伴う成長のある魅力的な財務プロファイル
7.経験のあるマネージメントチームとフライトチーム

1回の事故で事業が止まるリスクも否定できない

考えられるリスクとしては、想定以上の旅行者の需要がないこと、そして想定以上にコストがかさむことです。

オペレーション上の事故も考えられます。まだ行われた事のない、宇宙への旅を提供し人の命が関わります。FAA(米国連邦航空局)はボーイング737MAXの事故が問題になってから、今まで以上に検査を厳しくしており、1回の事故で、事業が止まる可能性も否定できません。

ヴァージン・ギャラクティックは、今までにない興味深い投資の機会を提供してくれますが、同時に今まで存在しなかったリスクがあり、現時点においては全ての投資家向きの銘柄ではないと思います。

投資をされる方は、投資のリスクを十分検討し、株価のボラティリティ(乱高下)に耐えられるかをよく考えた上で、投資をすることをお勧めします。