個人消費が一年で最も盛り上がるホリデーシーズンに突入

米国では11月28日(木)に感謝祭を迎え、本格的なホリデーシーズンに突入した。この時期に脚光を浴びるのが個人消費である。感謝祭翌日の金曜日は「ブラックフライデー」と呼ばれ、小売業界が毎年大規模なセールを実施する年末商戦のスタートとなる。さらに翌週月曜日の「サイバーマンデー」に続き、その後、クリスマス直前まで、一年のうちで最も個人消費が膨らむシーズンである。

では、このホリデーシーズンに米国人は平均どのくらいの支出をするのだろうか。Investopediaの記事「Average Cost of an American Christmas」(米国人のクリスマスの平均コスト)によると、米国人がクリスマスにかける予算は、2008年以降毎年、前年比で上昇していると言う。2019年のホリデーギフトに費やす平均支出は、1人あたり920ドルと、2018年の885ドルから増加し、シーズン合計で1兆ドル以上になると予想されている。

また、2018年の支出額の内訳を見ると、贈り物に1,000ドル以上費やす人は33%、500ドルから999ドルは22%、100ドルから499ドルの間が29%と、1,000ドル以上支出する人の割合は3割を超えていた。家族はもちろん、職場の同僚や友人等へのプレゼントで、この時期、米国人の財布の紐は緩むという。

よく知られている通り、米国においては個人消費がGDPの約7割を占め、経済をけん引する重要なエンジンである。米中の貿易戦争が個人消費へも影響を与えることが懸念されているが、全米小売業協会(NRF)が発表した今年の年末商戦の売上高予想は、前年比+3.8~+4.2%と2018年の同期間の2.1%増や、過去5年間の平均3.7%増を上回る見通しとなっており、ホリデーシーズンは特別ということなのだろうか。

その一方、今年は感謝祭が11月28日(木)だったため、昨年よりホリデーシーズンが1週間短く、カレンダー上では最短となる。また、クリスマスが水曜日にあたるため、「スーパーサタデー」の勢いが奪われるかもしれないとの指摘もある。

「スーパーサタデー」はクリスマス直前の土曜日のことで、「ブラックフライデー」や「サイバーマンデー」と同様、ホリデーシーズンの中でもショッピングが大いに盛り上がる日である。さらに今年はここに悪天候も重なり、感謝祭の当日、米国各地では冬の嵐となった。

こうしたことからアマゾン(ティッカー:AMZN)やウォルマート(ティッカー:WMT)、ターゲット(ティッカー:TGT)等の小売業者は例年より早くセールを開始し、「ブラックフライデー」のオンラインでの売上高は今年、過去最高の74億ドル(約8,100億円)を記録した(※1)。

もちろん、クリスマスが間近に迫るタイミングになれば、オンラインよりは店舗へ足を運んで直接品を手にしたいと言う消費者の割合も増えてくるであろうが、「ブラックフライデー」のセール開始当日に目当ての商品を求めて、店舗のオープンを待って長い行列を作ると言う風景は過去のものになりつつあるようだ。

(※1)参照:CNN.co.jp「米『ブラックフライデー』のオンライン売上高、8000億円超の新記録」(2019年12月1日)

ブラックフライデーに店舗を空けない?オンライン化が変える消費スタイル

BUSINESS INSIDER JAPANによると、コストコ(ティッカー:COST)、ティージェイエックス・カンパニーズ(ティカー:TJX)、ノードストロム(ティッカー:JWN)等、少なくとも60の小売業者が今年の感謝祭には店を開けない計画で、米国最大のショッピングデーである「ブラックフライデー」の意味合いがこれまでとは変わってきているという。

もはやブラックフライデーにかつてのような重みはないようだ。その一因として、消費者がオンラインで買い物をすることが増えたことがある。オンラインで買えるということは、最大の買い物の日のために店で長い列に並んで時間を無駄にしなくていいということだ。

「結局、消費者は利便性を求めていて、欲しいアイテムを買ったらすぐに店を出たいのだ。長い列に並びたくないし、もう開店時間を待ちたくはないのだ」と、ナスダック・アドバイザリー・サービス(Nasdaq Advisory Services)のシニア・スペシャリスト、ジョッシュ・エルマン(Josh Elman)氏は2017年10月、Business Insiderに語っている。
(中略)
「ブラックフライデーに、8年前もしくは10年前のような盛り上がりがあるだろうか? 」
ウォルマートのアメリカ部門のCEO、グレッグ・フォラン(Greg Foran)氏は2017年11月、ウォール・ストリート・ジャーナルに語った。「そんな世界は消えてしまった」

そして、消費者は年間を通じたセールに慣れ切ってしまった。それは、最大の買い物の日の意義を失わせている。エルマン氏は「ブラックフライデーとサイバーマンデーのアイデア自体が、消費者がセールに慣れてしまったことで、意味をなさなくなっている」と指摘する。「悲しいことだが、時代が変わったのだ。今、起きていることはまさにパラダイム・シフトだ。小売業者は何が起きているか、分かっているだろう。その上で、彼らは自身の力の及ぶ限り、顧客のニーズに応えようとしている」

(出所:BUSINESS INSIDER JAPAN2018年10月12日「アメリカ最大の買い物の日『ブラックフライデー』は死んだ…… その2つの理由」)


オンラインの波は人々の消費スタイルを大きく変化させている。アドビシステムズ(ティッカー: ADBE)が公表したAIと機械学習のテクノロジーであるAdobe Senseiを活用したオンラインショッピング予測(※2)にその潮流が指摘されている。公表されたデータによると、2019年のホリデーシーズン(11月1日~12月31日)における米国のオンラインでの売上高は昨年から14.1%増加し、総額1437億ドルになる見通しだという。

【図表1】Adobe Senseiを活用したホリデーシーズンのオンラインショッピング予測
出所:Adobe Holiday Shopping Trends Adobe Digital Insights 2019

また、タブレット端末やデスクトップパソコンからに比べ、スマートフォンからの購入が大きく増えており、スマートフォンを使って購入する額は前年より140億ドル増えると予測されている。

【図表2】オンラインショッピングのデバイス別売上高
出所:Adobe Holiday Shopping Trends Adobe Digital Insights 2019
※青:タブレット、水色:デスクトップ、赤:スマートフォン

さらに大きな変化として、BOPIS(buy online, pick up in store)がこれまで以上に利用される見通しだという。オンラインで注文して店舗でピックアップするBOPIS注文は堅調な伸びを見せ、2018年比で39%増、今回のシーズンでは消費者の37%がBOPISの利用を計画しているとのこと。

また、年間のオンライン売上高が10億ドル以上のオンライン大手は売上高が65%増えると見込まれる一方、年間のオンライン売上高が5,000万ドル以下の中小業者は35%増にとどまるとされており、大手優位の展開が明らかだと指摘している。

(※2)参照:Adobe Holiday Shopping Trends Adobe Digital Insights 2019(PDF)

各社、生き残りをかけた新たな取り組みも

こうした大きな変化がある中、各社が生き残りをかけて新たな取り組みを始めている。ウォルマートのような大手は、その資力を背景に、早い時期からアマゾンをにらみつつオンラインへの投資を進めてきた。

これまでにもウォルマートは新興のeコマース企業であるジェット・ドット・コムや男性衣料販売のボノボス等の企業を買収した他、オンラインと実店舗を組み合わせて取り組むなどにより足元の業績は堅調に推移している。

一方、百貨店のコールズ(ティッカー:KSS)は、巨人アマゾンと対抗するのではなく、協調することで生き残りの道を模索している。コールズは、消費者がアマゾンのサイトで買った製品の返品を全米48州にある1,150店舗の全店舗で受け付けるサービスを、今年7月から実施している。このプログラムによる返品は無料で、理由も一切必要ない。不要になった商品をコールズの店舗に持ち込めばいいだけである。

コールズにとっては消費者を店舗に足を運ばせる1つのきっかけとなり、売上の改善にもつながると見込んでいるようであるが、期待したほどの効果はここまでのところ出ていない。先日発表された第3四半期の業績では純利益が約23%の減少となり、株価が大きく下がる場面があった。

この他にも、メーシーズ(ティッカー:M)は、著名人とのコラボレーションによるオリジナルブランドを展開する等の策を講じているが、これらはあくまで対処療法的取り組みであり、オンライン化の流れを覆すような抜本的な取り組みとは言い難い。小売企業の中には今後、さらに店舗を閉鎖して雇用を削減しなくてはならない企業も出てくるだろう。

このように小売業界の強弱が分かれる中、フィナンシャルタイムズの記事「Short sellers get early holiday gift from US retail sell-off」(空売り筋は米国の小売業が値下がりすることで早めのホリデーギフトを手に入れた)によると、コールズやメーシーズ、ターゲット、ノードストロムといった企業が空売りの対象になっていることも伝えられている。

百貨店を中心に業界再編の波?

米国の消費支出が比較的堅調であるのに対して、百貨店の苦戦が明らかになっている。物が豊富にあり、マスの消費者層がより若いミレニアル世代やZ世代に移行して行く中、そこに行けば欲しかった物が手に入る百貨店に、今や彼らが求める物、欲しいと思う物はおいておらず、時代遅れになっているのだろう。

IHS Markitは米国の百貨店の売上は11月と12月に6%減少すると予測しており、2018年シーズンの2.8%の減少よりも悪化している。これは米国の小売業が2ヶ月間に前年比4.6%の売上を増加し、730億ドル以上に達するというHISのいう全般的な傾向とは逆行する。

「昔は百貨店が1つ屋根の下で他の人の製品のキュレーターを務めていた」と、英国のセルフリッジの元最高経営責任者で、現在はスーパードライの会長を務めるPeter Williams氏は言った。「インターネットはその過程に穴をあけた」そして彼は付け加えた。「もはやすべての製品はどこでも手に入り、どこで売られようが関係ない」

SWリテールアドバイザーズの創設者であるStacey Widlitz氏は、製品の価格だけが差別化要素になった―その結果、百貨店は「慌てて特売を始め」、利益を食い尽くす道をたどることになると指摘している。

百貨店の米国小売り販売に占めるシェアは、1980年代の約10分の1から1.5%未満に減少してしまったとコンサルタント会社カスタマー・グロース・パートナーズのCraig Johnson社長は述べた。

「(百貨店の)基本的な概念は今日のほとんどの買い物客、特にミレニアル世代にとっては無意味なのだ」とJohnson氏。

こうしたプレッシャーに直面して百貨店は、ラップトップコンピュータ(eコマース)では達成できない体験を提供する場所として生まれ変わるために自分たちのルーツをはるかに超えて変わりつつある。

(出所:フィナンシャルタイムズ2019年11月26日「Department stores fight for relevance ahead of Black Friday(デパートはブラックフライデーの前にその存在意義のために戦う)

上記の記事によると、消費におけるこうした変化を背景に、ジェイ・シー・ペニー(ティッカー:JCP)は、スパや理髪店、フィットネスクラブだけではなく、ディズニーのアウトレットまでそろえたて「完全にコンセプトの異なる」店舗をオープンしたという。消費ではなくエクスペリエンス(体験)を提供する場に変えるということなのだろう。しかし、こうした取り組みは、上り坂を息を切らしながら登って行くようなものになるだろう。

米国の小売業界では、昨年、創業100年以上の歴史を誇ったシアーズが破たんした他、ファストファッションのFOREVER 21がチャプター11(米連邦破産法11条)を申請するなど、厳しい状況が続いている。また、カジュアル衣料のギャップ(ティッカー:GPS)は業績低迷によりCEOが解任され、ティファニー(ティッカー:TIF)は仏高級ブランドのLVMHグループが買収することで最終合意した。

オンライン化の波、そしてマスの消費世代が移り変わる中で、ホリデーシーズンも含め、消費のスタイルが大きく変わっている。今や、各社の生き残りは従来の延長線上にはないのかもしれない。小売業界は今後も大きな地殻変動に見舞われそうだ。

石原順のトレンド5銘柄

<押し目買い銘柄候補>

アマゾン(ティッカー:AMZN)

出所:筆者作成

ティファニー(ティッカー:TIF)

出所:筆者作成

<戻り売り銘柄候補>

コールズ(ティッカー:KSS)

出所:筆者作成

メーシーズ(ティッカー:M)

出所:筆者作成

ジェイ・シー・ペニー(ティッカー:JCP)

出所:筆者作成

 

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