「過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せるだろう」
ウィンストン・チャーチル (イギリスの政治家、ノーベル文学賞受賞)

先週金曜日に既に史上最高値を更新したS&P 500とナスダック総合指数だが、週末明けの月曜日には新たに最高値を更新、それぞれ3,078と8,433で引けている。ダウ工業株30 種平均も月曜日に一足遅れて史上最高値(27,462)を更新、これで米国主要株価3指標全てそろって史上高値を更新する事になった。市場のセンチメントは1ヶ月前と比べ大きく改善した。あの時の悲観的なムードは一体何だったのだろうと思う。

先週市場が最高値を更新したきっかけは、金曜日の予想を上回る非農業部門の雇用者数の発表なのだが、米国と中国の貿易問題が解決に向かっているという報道やFOMC(連邦公開市場委員会)による利下げも投資家に安堵感を与えた。だが、株価の上昇を正当化した最も重要な要因は、ウォール街のアナリスト達の事前予想を上回った米国企業業績の発表だ。

米国企業の決算発表については、先週1週間が決算シーズンのピークの週となっており、S&P 500のうち32%に相当する158社が決算発表を行った。週末の段階で、これまで72%に相当する359社が決算発表を終えた。

今週は89社の決算発表が予定されている。発表を終えた359社のうち、61%の企業が事前の前年同期比で売上高予想を上回っており、80%の企業が収益予想を超える決算発表を行っている。事前予想の売上高と実際に発表された売上高との乖離率(売上高サプライズ)は0.63%だが、事前予想の収益と実際に発表された収益との乖離率(収益サプライズ)は4.86%となっている。

3ヶ月前の第2四半期の発表の際には、55%の企業が事前の売上予想を、また76%の企業が収益予想を上回っていた。

11月は1年間で最も株価のリターンが高い6ヶ月間の始まりの月

株式市場ではアノマリー(変則、異例)という用語が使われる。このアノマリーとは、相場で理論的な根拠があるわけではないものの、経験的によく当たる規則性のことだ。

よく知られているアノマリーとしては、第4四半期に市場のリターンを下回った銘柄は1月に市場のリターンを上回ると言われる「January Effect(1月効果)」や、「Sell in May(5月に株を売れ)」という5月から9月までの相場はもたつくことが多いので5月に株を売った方が良いというものがある。

その「Sell in May」の考え方を参考に、1年間を半年で分けて半年間の株価のパフォーマンスを調べてみた。結果は、11月からの6ヶ月が1年間で最も株価が上がった6ヶ月の始まりだというアノマリーが散見できた。

【図表1】S&P 500の月別平均騰落率(1928年~2018年)
出所:Bloombergのデータをもとにマネックス証券作成

このデータは1928年から2018年までの91年間のS&P 500の株価の月間の平均騰落率を算出してみたものだ。これには配当金は含まれていない株価だけのリターンなので、配当金を含むと実際はもっと高いリターンとなる。

これによると91年間の5月から10月までの半年間の平均上昇率は2.3%であるのに対し、11月から4月までの半年間だと4.9%上昇している。その上昇率の差は2.6%と、決して無視することはできない違いだ。歴史が繰り返すとすれば、この時期に米国株を買い始めることは正しい投資行動だと言えよう。

株価の上昇を支える自社株買い

株価を支える大きな要因のひとつとして、米国企業による自社株買いの存在は無視できない。多くの米国企業は、株主還元策として大規模な自社株買いを実施している。

決算発表の時期には自社株買いを行ってはいけないという「ブロックアウト・ピリオド」期間があるのだが、決算発表を終えた企業は自社株買いを再開する事ができるので、今から次回の決算発表までの間は株価のサポート材料となる。

年末までの見通しと推奨銘柄

事前予想を上回る企業決算に加え、企業による自社株買い、そして、11月からの株価は上がる可能性が高いというアノマリー現象が加わるとすれば、今年の年末に向けS&P 500が高値を更新し続けるのも自然な流れだと考えられる。

今年末までにS&P 500が3,150 を抜いてくる展開は現実的なシナリオだろう。実際2020年の予想EPSである$181.57を使って算出したS&P 500の3,150のPERは17.4倍であり、過去18年間のPER17.2倍と比較しても割高感はない。

これから年末にかけて株価が上昇する局面では、今年市場をけん引してきた銘柄群が引き続き市場をけん引していくのではないかと考えられる。

個別銘柄としては、アップル(AAPL)、アマゾン(AMZN)、マイクロソフト(MSFT)、インテル(INTC)、エヌビディア(NVDA)のような大型銘柄、及び配当利回りが高いだけでなく増配に加え、株価の上昇も期待できるAT&T(T)、ベライゾン・コミュニケーション(VZ)、フィリップ・モリス・インターナショナル(PM)、シティグループ(C)、また、小売りではターゲット(TGT)、防衛関連でレイセオン(RTN)等に投資妙味があろう。

ただ、長期投資として株を買う場合であっても、時間の分散を忘れないことをおすすめしたい。