退職時点で取り崩しの研修も
退職後には、現役時よりもより難しいお金との向き合い方が求められるわけですから、より高い金融リテラシーが必要になります。にもかかわらず、前回のコラムで述べたとおり「取り崩しに関する理論」を聞いたことがないという人が多数ですから、まだまだリテラシーの向上の余地は大きいと思います。
退職を控えた年代になると、企業の従業員であればいろいろな研修を受けることになります。退職後の生活に関して、年金の受け取り方、健康維持、継続的な勤労の意味など、多くの課題がありますが、その中に資産の取り崩し方の考え方を入れておくべきではないでしょうか。
これは働いてきた経験を経てお金の大切さがわかってきた段階だからこそできる金融リテラシーの向上策だと思います。是非とも現役時代にこうした研修を広めるべきでしょう。
>>第1回目:「資産を作り上げる時代」における金融リテラシー
>>第2回目:「資産活用時期」に必要な「定率引き出し」の力
高齢者の自信過剰が課題
ところで、退職直後はともかくとして、さらに年齢を重ねれば金融リテラシーも低下せざるを得ません。
2016年に金融広報中央委員会が行った「金融リテラシー調査」では、多角的な分析がなされています。その中で使われている、「金融リテラシー・クイズ」をフィデリティ退職・投資教育研究所が2018年12月に実施した高齢者の金融リテラシー調査(回答者65歳から79歳までの1万1960人)でも取り入れて分析しています。
クイズは5つの選択問題で、正解に20点ずつの配点をして合計します。金融広報中央委員会の調査では18歳以上で実施しており、年代別の平均得点は、18-29歳41.7点、30代48.4点、40代51.2点、50代56.5点、60代58.6点、70代56.7点でした。
年齢が高いほど点数も高く、明らかにお金に関する「生活力」は年齢に比例していることを示しています。
フィデリティ退職・投資教育研究所の調査では、自身の金融リテラシーに対する自己評価と金融詐欺被害率も計測しており、実際の金融リテラシーの水準、自己評価、詐欺被害率をクロス分析しています。
その結果、自分自身では「金融知識が高い」と判断しているものの、実際の金融リテラシー・クイズの点数が低い人、すなわち金融リテラシーに対して「自信過剰な人」は金融詐欺被害率が高かったことがわかりました。しかも、金融リテラシー・クイズの水準そのものはそれほど影響がなかったとこともわかりました。
加齢に伴って金融リテラシーは低下するものの、それに対する自己評価は変わらないとすると、自信過剰に陥りやすい懸念は強くなります。高齢者の金融リテラシーを高めることは簡単ではないだけに、金融リテラシーに対する自己評価をいかに正確にしていくかが重要なアプローチとなります。
金融リテラシーに対する「自信過剰な人」は、アンケート対象者の13.7%にも達しており、65歳の7人に1人は金融リテラシーに自信過剰というわけで、決して他人事ではありません。
アドバイザーの重要性
そうした高齢者特有の課題は、認知・判断能力の低下としてさらに顕著に現れます。それでも、資産活用は不可欠であり、そのためのアドバイザーがこれまで以上に求められることになるでしょう。
金融庁の「市場ワーキンググループ」でも2018年9月以降、こうした議論を続けています。超高齢社会における高齢者の側に立ったアドバイザーの必要性は高まらざるを得ないでしょう。