年収が大切な切り口

日本の65歳以上人口は、既に総人口の28%台に達し、世界一の水準です。それが2065年には4割に近づくと推計されています。こうした超高齢社会において、我々はお金とどう向き合っていけばいいのでしょうか。少なくとも、人口構成の変化は公的年金や医療保険制度に大きな影響を与えるでしょう。公的年金の制度は持続できるでしょうが、それだけで生活費を賄える人はかなり少なくなっているでしょう。

そうした社会が目前に迫っているなか必要なことは自助努力。すなわち自分の力でできるだけ資産を作り、それを活かす力を身につけることです。そこでその必要な考え方を、資産を形成する時代と、それを活用する時代の2回に分けて考えていくことにします。

第1回目は「資産を作り上げる時代」における金融リテラシーに関して、そのための投資教育とその世代が身に着けるべき点についてまとめます。

家庭でのお金の話

私は大学で講義をさせていただくときに、2つの質問をしています。1つは、自分の学費を知っているか、もうひとつは親の年収を知っているか、です。この2つから親の年収の何割くらいを自分の学費に充てているかがわかります。

一般的には親の年収の2割程度だと思いますが、それを知ることで生活の中のお金の規模感を知るいい方法だと思ったからですが、問題はその計算に至らないことです。半数くらいが大学の学費を知らず、大半が親の年収なんて聞いたことがないことでした。

このコラムを読んでいる方でお子様をお持ちの方、自分の年収をお子様に話していますか?中学生くらいになれば、親の年収の規模感は理解できると思います。

親側からすると、他所で話したら恥ずかしいとか、そもそも子どもに教えなくてもいいと思っていらっしゃるかもしれませんが、それらはどちらかというと親の見栄に近いものではないでしょうか。私は子どもにもっとお金のことを家庭でも話してほしいと思っています。

金融リテラシーとは、お金に関するもっと生活に根差したものだと思っています。リテラシーは「識字力」といった意味ですから、金融リテラシーはまさしくお金に関する読み書きに近い実践、「生活力」が求められることです。知識だけではなく経験も積み重ねることだとすると、学校での投資教育は不可欠ですが、合わせて家庭でのお金の話も重要だと思います。

その点では、家庭で親が年収の話をするというのは必要なことの1つではないでしょうか?

資産形成比率を考える

一方で、読者皆さん自身の資産形成に関しても、大切なポイントがあります。まずはこの式をご覧ください。

資産形成額=年収×資産形成比率

この式は、退職後の生活ためにどれだけの金額の資産形成を行えばいいかを考えるための掛け算です。大切なことは、年収に連動しているという点です。

フィデリティ退職・投資教育研究所がこれまで実施してきたアンケート調査結果から、「現役時代の年収が多い人ほど、退職後の生活資金は多く必要だと考えている」ことがわかっています。すなわち、年収が高いことで生活水準は高くなり、退職しても簡単にその水準は落とせませんから、その分退職後の生活のための資産形成も増やさざるを得ません。

それを表したのが、先ほどの掛け算です。すなわち資産形成比率を定めておけば、年収が増えると自動的に資産形成額も増えるということです。

この考え方は非常に重要なのですが、積立投資の説明では、毎月定額で投資をするということだけに注意が向けられているようです。1~2年のイメージでみれば、「定額で投資する」ということは理にかなっていますが、もっと長い時間軸で考えると、「年収にあわせて投資額を増やしながら投資する」という点を忘れないことが大切です。

年収の16%を資産形成に

具体的にどれくらいの資産形成比率が望ましいのでしょうか。それぞれにできる範囲ということになりますが、とはいえベンチマークになるものが必要でしょう。

フィデリティ投信では2018年11月に「フィデリティの退職準備の指標」の中で、この資産形成比率を発表しています。日本の数値は16%。年収の16%を資産形成に回すというアドバイスです。詳細は、こちらをご覧下さい。

例えば、年収300万円の方であれば、計算上年間48万円を資産形成に回すことになります。かなりの金額ですが、ちょっと考えてみてください。

既に企業型確定拠出年金に加入している人は、企業拠出分を含めて構いません。財形貯蓄をしていればそれも含めましょう。企業の持株会に入っている人もいるでしょう。そうした拠出額をすべて足してみると、良い水準まで到達しているかもしれません。

それにあとちょっと足して16%にすればいいのです。iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)などは有効に活用できる制度です。

年収を上げることも忘れずに

ところで先ほどの掛け算をもう一度見てください。資産形成額を引き上げるためには年収を上げることも大切だということがわかります。

資産形成を進めるために、早くから金融資産投資を始めるということも大切ですが、「自己投資」で将来の年収を引き上げる努力をすることも大切ではないでしょうか。現役時代には、資産形成を進めるためにできることはたくさんあります。

金融リテラシーは知識だけではなく経験も大切ですから、お金に関する多方面の経験もきっと将来の金融リテラシー向上にも役に立つと思います。