介護が始まるきっかけの1位は「認知症」
厚生労働省が2022年に発表した「国民生活基礎調査」によると、介護が必要になった主な原因の1位は「認知症」でした。このことからも、これから親の介護が始まる可能性のある人は、認知症について知っておくと安心です。
認知症の親を介護している人は、どんな悩みを抱えているのでしょう?私の介護ブログや音声配信などに寄せられた声の中から、特に多かった認知症に関する3つの悩みとその対処法をご紹介します。
悩み1「認知症の疑いのある親を病院へ連れて行けない」
1つ目の悩みは「認知症の疑いのある親を病院へ連れて行けない」というものです。親に認知症の疑いがあっても、病院へ連れて行くのは簡単ではありません。
太陽生命少子高齢社会研究所が行った「認知症に関する調査」によると、「今思うとあの頃から認知症だったかもしれない」と思った時期から、医療機関で認知症と診断されるまでにかかった時間は、平均で16.2ヶ月でした。
なぜこんなに時間がかかるのかというと、認知症初期の段階では、親自身は自分が認知症と思っていないため、病院に行く必要性を感じていないからです。一方で、子どもは、親に対して早めの受診が必要と焦るため、親子で意見が対立しやすくなります。
また、子どもが親の認知症を受け入れられず、老いによる“もの忘れ”で心配ないと思いたい気持ちが強く、病院の受診が遅れてしまうパターンもあります。
私の場合は、母を病院へ連れて行くまでに半年かかりました。母は自分が認知症と思っていなかったのですが、私は明らかに認知症だと思っていたので、図書館で認知症関連の本を読み漁り、良い病院を見つけるために時間が必要でした。
この悩みの対処法は、「焦らない」ことです。調査結果からも分かるように、多くの人が病院の受診に時間がかかっています。中には、3~5年以上もかかってしまうケースもあります。
1回の説得で解決しようとせず、時間をかけてじっくり取り組むつもりで、親を説得してみましょう。もし説得が難しい場合は、親にとって聞き入れやすい相手を探してみるのも良い方法です。例えば、かわいい孫の言うことならなんでも聞くとか、兄の言うことには逆らえないなど、説得する人を変えて、病院受診に成功した方もいます。
悩み2「認知症の親に嘘をついてしまった罪悪感がある」
2つ目の悩みは「認知症の親に嘘をついてしまった罪悪感がある」というもの。認知症の親に嘘をつく場面として、病院の受診時や施設の入所時などがあります。私の場合は、認知症の疑いのある母を病院へ連れていく際に、「市の健康診断がある」と嘘をつきました。親を介護施設に預けた方の中には、食事や旅行へ行くかのように連れ出して、そのまま施設に預ける方もいました。
介護に限ったことではなく、嘘をつくこと自体、どこか後ろめたさを感じるものです。しかし認知症の親と良い関係を保つために、嘘が必要な場合もあります。
例えば、亡くなった祖母の話題になったとき、認知症の母は「さっきまでそこに居た」と言い張ります。「もう亡くなっている」と事実を伝えて否定すれば、母と言い争いになりますが、「トイレに行ったみたいだよ」と嘘をつけば、納得して穏やかでいてくれます。
「認知症介護では、嘘も方便が必要」という人もいるくらい、事実とは違っていても、認知症の親に穏やかに過ごしてもらうために嘘をつく場面が多くあります。そうした嘘の積み重ねに罪悪感を覚える介護者はいますが、割り切りが必要です。
あまり自分を責めすぎずに、介護をラクにするため、自分自身を守るための嘘と考えましょう。ただし、親を介護施設に預けるなど重要な決断をする際は、嘘をついて無理やり施設に入れてしまうと、なかなか罪悪感が消えません。親と十分話し合い、了解を得てからの方が、後々の心の負担が軽くなります。
悩み3「認知症介護の終わりが見えない」
3つ目の悩みは「認知症介護の終わりが見えない」ことです。終わりが見えず、いつまでこのつらい状況が続くか分からないと悩む介護者の声をよく聞きます。
マラソンに例えると、ゴールが見えていれば、自分の体力と折り合いをつけながら走ることができます。しかし、ゴールが見えない状態では、どれくらいのペースで、いつまで走り続けなければいけないのかと、不安でいっぱいになります。
まずは、自分の介護の状況を見直してみましょう。ひとりで介護を抱えていませんか?介護保険サービスを活用し、介護のプロの力を借りていますか?介護のストレスをたくさん抱えていると、親の介護が早く終わって欲しいという気持ちが強くなりがちです。
また、つらいことは時間の経過が遅く感じられるため、介護の終わりがより遠く感じられるようになります。そのような時には介護のプロの力を借りて、ストレスを減らせば、そのつらさは緩和されますし、さらに時間の感覚も少し早く進むようになるでしょう。
終わりが見えないのは、介護に限ったことではありません。私たちの人生も、いつ終わりが来るのか、誰にも分かりません。それでも前を向いて生きているのですから、介護も同じように考え、今という時間を大切にすることに目を向けた方が良いかもしれません。