資産活用時期と現役時代の金融リテラシーは異なる
超高齢社会では、退職した後の生活期間が長くなる分、退職してからも資産運用を続けることが十分可能になります。しかし、資産形成のプロセスとそのための金融リテラシーは、必ずしも退職してからの運用で通用するとは言い切れません。
作り上げた資産をどう長く持続させるかという時期は、資産形成と区分して、私は「資産活用」の時期と呼んでいます。
「資産活用」とは、作り上げた資産を取り崩して生活費に充てるものの、その資産をできるだけ長く持たせるかに心を砕く必要があります。すなわち資産寿命の延伸です。その意味では積立投資の理論はもう通用しなくなります。それ以上に、資産を取り崩していく理論の方が必要になるわけです。
>>第1回目:「資産を作り上げる時代」における金融リテラシー
資産収入は赤字補填ではない
ここでも数式をご紹介します。
退職後の生活費=退職後年収
退職後年収 =公的年金収入+勤労収入+資産収入
現役時代の年収は主に勤労収入ですが、これを生活費と資産形成に振り分けます。すなわち「勤労収入=生活費+退職後の生活のための資産形成」というわけです。
これに対して、退職後の生活は、上の等式のように、退職後の生活費は何らかの形で賄われることになり、その源泉をすべて合わせたものを「退職後年収」と呼ぶわけです。
そして2つ目の等式は、その「退職後年収」の源泉を表しています。「公的年金受給額」と「勤労収入」、そして資産を取り崩す「資産収入」の3つです。
ただ、誤解してならないのが資産収入は、支出と年金収入/勤労収入の差額、すなわち「赤字」と考えるものではないということです。そもそも現役時代の資産形成は退職後の生活に使うために作り上げてきたものですから、そこから引き出す「資産収入」は収入の源泉とした前提でなければいけません。
問題はどうやって引き出していくか、どうやって残っている資金を運用していくか、ということになります。ここに金融リテラシーが求められるのですが、これは取り崩すための金融リテラシーですから、資産形成とは根本的に異なるものになります。
「定率引き出し」で残った資産への影響も視野に入れる
資産の取り崩しに関して、理論的に説明されることはこれまでほとんどなかったのではないでしょうか。金融機関のご依頼で多くのセミナーの講師を務めてきましたが、取り崩しについてお話をすると初めて聞いたという反応が多く寄せられます。
現役時代にしっかりと貯蓄して、退職したらその貯蓄を取り崩して生活に充てるというのは、一世代前の預金金利が高かった時代の考え方です。その時代には、例えば「公的年金以外に毎月10万円しか資産を取り崩さないようにする」といった考え方は有効でした。この考え方の背景には、使いすぎないという考え方が強く働いています。
しかし、退職後の資産運用を続ける場合には、こうした定額の引き出しは運用資産に大きなマイナスの影響を残すことがあります。
資産運用では資産価格の変動は不可避です。相場の変動で資産額が減少するときもありますし、増えるときもあります。資産運用をしながら引き出すという「資産活用」の時代では、資産額が少なくなった時にも一定の金額を引き出していると運用資産の想定外の毀損につながります。
その時には引き出し額を抑制し、資産額が大きくなった時には引き出し額を増やすといった方法で、運用を続けている資産の変動も視野に入れた引き出しが必要になるのです。
これを具現化する方法の1つが「定率引き出し」です。定額でない分、引き出し額の変動が気になりますが、長い退職後の人生を想定すると、その前半だけでもこうした「定率引き出し」の力が必要になります。