これまで、筆者の第1回目コラム「高齢者が「人生100年時代」に直面する3つの問題」では老後に直面する問題、そして第2回コラム「人生100年時代に必要な「ライフサイクル投資」とは」ではそれに対処するための資産運用の考え方(ライフサイクル投資)について触れてきました。

どちらも老後の資産形成を実践する上でとても大事な考え方なのですが、具体的な数字がなかったため、具体的に何をすべきか、イメージしづらかった人もいたのではないでしょうか。

そこで筆者の執筆最終回となる今回は、この「老後2,000万円」をどのように準備するのか、そしてそれがどの程度大変なのかを見ます。もちろん2,000万円が全員にとって適切な目標とは言えませんが、ひとつの基準として国が示した数字ですから気になっている方も多いでしょう。

今回は、最も老後の準備に関心のある世代だと思われる50歳の方について考えてみることにします。

平均的な純貯蓄額がある場合

公的年金の支給開始年齢が65歳であるため、この50歳の人は65歳まで働くと仮定し、準備期間は15年とします。2018年の家計調査をみると世帯主が50代で、2人以上の世帯の純貯蓄額(=貯蓄現在高-負債現在高)は1,095万円となっています。

これを50歳時点での残高とした上で、65歳時点のゴールを2,000万円として毎月の必要積立額を算出します。すると、まったく運用をしなかった場合で毎月50,278円、年率3%のリターンが得られる場合は毎月12,964円、そして年率5%のリターンであればもともと有している金融資産が大きいため、元手だけで65歳までに2,000万円を達成できると計算されます。

このように家計調査の平均レベルの金融資産をすでに持っている場合には、2,000万円は難しい金額ではありませんので、より豊かな老後を目指して目標額をアップしてもよいかもしれません。

負債がある家計の場合

でもこの結果に違和感を覚えませんか? おそらく1,095万円という数字をみて、「私はそんなに持っていないよ!」と思う人も多いと思います。

おっしゃるとおりで、これは負債を抱えていない人、つまり富裕層等のデータも含んだ数字になりますので、かなり上方に偏っていると思われます。より一般の実態に近いものとして、負債を保有している世帯のみを対象としたデータをみてみると、50代の純貯蓄額は151万円となっています。

これに基づいて必要な積立額を算出すると、まったく運用しない場合、毎月の積立額は102,722円となり、年率3%のリターンが得られるならば77,812円、そして年率5%のリターンでも63,410円になります。

十分な資産が50歳の時点でないと、このように毎月の積立額は高額となるので、積立を実施するのが困難な人のほうが多いでしょう。では、どうすればよいのでしょうか?

引退を70歳に遅らせれば難しくない

答えはシンプルで、長く働いて引退を70歳にすればよいのです。この場合には準備期間は20年となりますから、先ほどのケースより毎月の積立負担は楽になります。

まったく運用をしなければ、積立額は毎月77,042円とまだまだ高額ですが、年率リターン3%で運用できた場合には毎月52,715円、年率5%のリターンの場合には毎月39,252円となります。

時間をさかのぼることはできないので、「もっと早くに積立投資をしておけばよかった」と思っても“後の祭り”ですが、人生100年時代の今、将来に働く期間を長くすることで、十分な積立期間を確保することはできるのです。

ただ、この場合、毎月しっかり積立投資することはもちろんですが、それ以上に65歳から70歳の間に相応の収入を得られるかがカギになります。そのような収入と積立額を良好な状態でキープできるように、50代くらいから知識・人脈・健康などの面からの準備が必要になるでしょう。

年率3%や5%のリターンは可能なのか?

上述の簡単な試算では、純貯蓄額が十分でない場合でも70歳まで働き、その間しっかり積立投資をすることで、2,000万円を準備できる可能性が高くなると説明しました。でもこの3%や5%のリターンを得ることはできるのでしょうか?

ここで公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)を考えてみます。GPIFの資産配分は現在、日本債券が35%、外国債券が15%、日本株式が25%、外国株式が25%と適度なリスク水準となっており、老後の資産形成のよい参考になると思います。

ここでGPIFが推計した各資産の期待リターンを用いると(2017年度の基本ポートフォリオの定期検証時)、ポートフォリオ全体の期待リターンは3.7%と計算されます。したがって、3%のリターンはそんなに無理をせずに獲得できると思います。

一方、5%を狙うとなると株式が7割くらい必要となりますから、ハイリスク・ハイリターン型の運用になってしまいます。心配な人は3%の運用で積立てるのが賢明でしょう。


今回は2,000万円を積立投資で形成する場合について議論しましたが、いかがでしょうか?雲をつかむような話ではなく何とかなりそうな数字だったのではないでしょうか。50歳からでも2,000万円はまだ間に合うので、さっそく実践してみることをオススメします。