北京の観光客にとって外すことのできない訪問先

万里の長城は、紀元前、秦の始皇帝の時代に建設が始まったとされます。その後17世紀、明の時代に至るまで、建設や改修が繰り返され、現存する城壁の総延長は6,000キロメートルを超えます。中国のスケールの大きさを象徴するものと言えます。

歩道やケーブルカー、ロープウェイなどが整備され、観光地となっているところから、トレッキングコースとして開放されているところ、整備状態が悪く立入禁止のところ、さらには近隣住民が建材(煉瓦)を持ち去るなどして朽ち果ててしまったところなど、状態は様々です。

北京の中心部から北西70キロメートルほどのところにある「八達嶺」は、ロープウェイや歩道、トイレや売店などの施設が整備され、またバスや列車など公共交通機関でのアクセスが良いことから、一番人気の観光地となっています。

日本の旅行会社も、半日や1日のバスツアーを多数催行しており、北京を訪れる観光客にとっては、故宮、天安門広場や頤和園(いわえん)などと並び、外すことのできない訪問先です。

オンラインのチケット予約で1日の入場者数を65,000人に制限

外国人にも大人気ですが、中国各地からも多くの観光客が訪れ、特に連休などには大変な混雑となります。昨年2018年の八達嶺への訪問者は1,000万人近くに達し、特に春と秋の気候の良い時期に集中するため、混雑が問題となっています。

1,000万人と言えば、東京ディズニーリゾートやフランス、パリのルーブル美術館に並ぶ入場者数です。それだけの人が、城壁の上部、幅数メートルほどの階段状の通路に集中しますので、時には身動きが取れなくなり、危険な状況も生じています。

事故等の恐れに加え、施設の従業員が疲弊し、また来場者の満足度の低下も懸念されるということで、政府の国家観光局は、このほど1日当たりの入場者数を65,000人までに制限しました。オンラインでのチケット予約システムを導入して、来場者に身分証やパスポートの番号を用いた実名制でのチケット購入を求め、今月から運用が始まっています。

チケットは1週間前から購入でき、当日、中国人は購入時に登録した身分証を提示すれば入場できます。また、外国人はチケットオフィスで紙のチケットの交付を受け、そちらを提示し入場することになります。

果たして混雑の緩和につながるのか、注目したいところです。

人気観光地は混雑の激化で地元住民との軋轢も問題に

先程、チケット販売のサイトを確認したのですが、中国語のページしかなく、また代金の支払方法も、スマホ決済か中国の銀行のデビットカードに限られており、外国人にはハードルが高い印象です。

また、北京では雨が降ることは稀ですが、大気汚染があるとせっかくの雄大な景色を楽しむことができません。以前は天候と大気汚染の程度を確認してから出向き、現地でチケットを購入することができたのですが、今後はそのような柔軟な動きは取れなくなります。

窮余の策でやむを得ないところなのでしょうが、万事めでたしとは行かないようです。当局には来場者の利便性への配慮も求めたいところです。

世界各地で観光がブームとなり、混雑の激化等により、イタリア、スペイン、オランダなどでは地元住民との軋轢も生じていると伝えられています。

日本でも、政府が訪日外国人を年間4,000万人に増やす目標を掲げる一方で、京都や大阪などでは宿泊料金の高騰や公共交通機関の混雑など、問題が生じていると伝えられています。観光客を「無条件でウェルカム」と言えない状況が各地で発生する中、地元政府や関係企業などは、住民の生活との共存をどのように図っていくのか、知恵と工夫が求められています。

万里の長城八達嶺で導入される混雑緩和策は、日本や世界の観光地にも様々な示唆をもたらすように思います。