7年間の北京での生活を振り返って

2012年9月より北京駐在員事務所にて勤務しておりましたが、このほど帰任が決まり、近く帰国することとなりました。マネックスメールへの本コラムの掲載は、2013年の2月に始まり、今回、298回をもちまして終了となります。拙い文章で、また雑多な内容に恐縮するばかりですが、ご覧いただきました皆様に、心より御礼を申し上げます。

本日は、最終回ということで、7年間の北京での生活を振り返っての雑感等をご報告したいと思います。ちょっと長くなりますが、お付き合いいただけましたら幸いです。

7年間北京に滞在し、限られた経験の中ではありますが、今の中国についていろいろ見聞きし、またこちらの方の話をいろいろ伺う中で、様々な発見がありました。同時に、赴任前の私の中国への理解が極めて限られた、かつ偏ったものであったことを痛感させられました。

中国は世界第二位の経済大国で、また日本にとっては隣国かつ最大の貿易相手国ですから、極めて重要な国であることには疑いの余地がありません。しかしながら、歴史的な経緯や政治体制の違いなどが影響し、感情的な問題も含め、微妙な関係にあることは否定できません。

日本で中国に関する話題というと、どうしてもネガティブな内容が多く見られ、またそれらが「受けがいい」ように思われます。台頭する中国に対する恐怖あるいは羨望の感情の裏返しのようにも思えてしまいます。やむを得ない点があることは認めますが、いつまでもそのようなバイアスがかかったままではいけないのではとの思いも強くいたします。

一括りに語ることはできない中国

私が今の中国について強く思いますのは、「社会が極めて複雑かつ多様である」ことです。

国土が広大で自然条件や気候も様々ですし、漢民族が圧倒的とはいえ多民族国家ですので、当然と言えば当然なのですが、象徴的なのは「貧富の格差」です。富裕層が、世界各地でブランド品や不動産を爆買いしたり、世界一周クルーズや南極ツアーなどの上得意客となったりする一方、山岳地帯などでは、水や電気などのインフラがまだ十分整備されていないところも多くあります。

住宅費など生活のコストが高い北京ですら、例えば建設労働者、宅配便や出前の配達員、あるいは商店や飲食店の従業員など、最低賃金に近い水準で働いていると思われる人が数多く見られます。

中国は既に生産年齢人口が減少に転じており、遠からず総人口もピークアウトすると予想されているのですが、中低位の所得層の人達における生活水準向上への意欲は高いものがあり、経済成長が鈍化しても、消費は底堅く推移することが予想されます。

天安門広場や繁華街の王府井では、地方の方言を話し、身なりも決して裕福とは見受けられない印象の団体が数多く見られます。おそらく、彼らは乏しい収入の中から必死で貯蓄をし、ようやく念願叶って北京への旅行を楽しんでいるのでしょう。今はまだ、海外旅行は「遠い夢」なのでしょうが、そう遠くない将来、彼らが日本や世界各地に繰り出すことが容易に想像されます。

ここ数年、経済成長の鈍化が取り沙汰され、将来についての悲観的な論調も目につきます。しかしながら日本の高度成長期からバブル期、さらに「失われた二十年」のように、一斉に良くなる、また悪くなるということは、中国では考えにくいように思います。「爆買い」も波こそあれ、きっとこれからも長く続いて行くのではないでしょうか?「中国は・・・」と一括りに語ることはできないというのが、7年間こちらで暮らしての実感になります。

将来を悲観視する日本の若い人達

もう一点、私が今の中国、特に若い人達を見て強く思いますのは、おそらく彼らは「頑張って働けば親の世代よりも良い暮らしができる」と考えており、また多くがそれを実現しているであろうことです。

親世代が既に裕福である、あるいは共産党、政府や国有企業などで地位を得ている家庭の子女であれば、その恩恵にあずかることができます。そうでない一般の家庭の子女も、長く続く経済成長により所得が増え、例えば車や家を持つ、あるいは海外旅行に出るなど、より多くの消費が可能になっています。ちょうど高度成長期からバブル期の日本に重なる光景です。

翻って、日本の若い人達を見ますと、「老後2000万円問題」に象徴される年金制度への不安などから、少なくない人達が、「頑張っても親世代のような暮らしができるのだろうか?」と
将来を悲観視しているように思えてなりません。重要なのは所得や生活の「水準」ではなく、将来の「見通し」であることを痛感させられます。

若者が未来に希望を持てないようでは国の将来は危ういと言わざるを得ません。少子高齢化に歯止めがかからない中、所得の再分配や世代間の公平性の確保などについて、待ったなしでの議論が必要と思われます。

以上、日本の将来に向けた課題提起をもって、最終回の雑感等のまとめとさせていただきます。

改めまして、本コラムをお読みいただきました皆様に、心からの感謝を申し上げます。
私は中国関連の仕事から離れますが、皆様には今後も当社グループの中国での取り組みにつき、ぜひ長い目で見守っていただけましたら幸いです。
ありがとうございました。