トランプ大統領の分析には必ず「不確実性」というキーワードがついてまわるが、確実なことが1つだけある。2020年大統領選挙で再選を目指していることだ。選挙はまだ約1年半先と遠い印象を持つかも知れないが、来年の今頃は予備選の結果はほとんど出揃っており、選挙戦は既に始まっている(図表1)。今後の米国をみるうえで、大統領選挙は重要な基軸になる。

【図表1】予備選スケジュール(2020年)
出所:New York Times紙、Election Centralなどから丸紅経済研究所が5月23日作成
※日程が暫定の州も含む、未定の州は未掲載

焦点は「米国の価値観」

前回の大統領選挙では、環太平洋パートナーシップ(TPP)やヘルスケアなどが争点だった。最近の世論調査では、今回もヘルスケア改革が筆頭に挙げられている。背景にあるのは、上昇する医療費と「国民皆保険」を提唱する民主党左派候補の出現だろう。

現在の米国の医療保険制度は破たんしているという見方は年々強まっており、米国にも「国民皆保険」が必要だとの考えは、民主党支持者だけではなく無党派層や共和党支持者の間にも広がりつつある。そう考えると、ヘルスケアの争点においては、民主党候補が有利になるかもしれない。

しかし前回の選挙を思い出すと、投票直前までクリントン候補の私用メール流出疑惑や、トランプ大統領の過去のスキャンダルにより有権者の支持が左右された。最後の投票行動を決めるのは、必ずしも争点に対する政策だけではない。トランプ大統領の支持層は「伝統的な米国価値観」の擁護者としてトランプ大統領を支持し続けている。

一方で反トランプ層は、トランプ大統領の移民差別などの政策が「米国の価値観を破壊している」と主張している。「国民皆保険」を巡る議論も、詰まるところは連邦政府がどこまで国民の生活に介入すべきかが問題であり、今回の大統領選も、今の米国有権者が「米国価値観」をどう定義づけるかが最大の争点といえる。

民主党候補は誰か。番狂わせは大いにありえる

現時点で主な民主党予備選候補者は24名。年齢は30代後半から80代後半、経歴は全く政治経験がない作家や実業家から、前副大統領や長年連邦上院議員を務めたことがあるベテラン政治家まで、そして政治的主義は急進左派から中道まで、実に様々だ(図表2)。

【図表2】民主党2020年大統領選挙予備選候補
出所:各種報道より丸紅経済研究所作成

民主党候補の指名を獲得するのは誰か。4月末にバイデン前副大統領が出馬を表明して以降、世論調査では同候補が2位のサンダース候補を大きく離して、支持率1位となっている。

バイデン候補は十分な経歴と、急進的な政策を忌避する民主党内の中道派からの支持を集めている。ただしバイデン候補は今年77歳、同78歳のサンダース候補と共に、高齢が懸念されている。大統領は2期務めることが理想とするなら、退任時にはそれぞれ87歳、88歳。核兵器使用の決断権限をもつ米軍司令官としては不安がよぎる。

上位2候補を除けば、上院議員のウォーレン候補ハリス候補が党内急進左派、先の中間選挙で共和党のクルーズ上院議員を追い詰めたオルーク候補が中道派として、次点集団に挙げられる。しかしいずれも大都市出身者で、選挙の結果を左右する中西部の激戦州(ペンシルバニア、ミシガン、オハイオ、ウィスコンシン州)で支持を集められるか懐疑的だ。

ワシントンDCの政治エスタブリッシュメントを嫌う潮流から、中西部インディアナ州の地方都市の市長を務め、同性愛者を公言するブーテジェッジ候補や、同じく中西部ミネソタ州選出上院議員のクロブシャー候補が今後支持を伸ばす可能性はある。

またベーシックインカムを主張する実業家のヤン候補など、政治経験が全くない候補であっても、前回トランプ氏が大統領になったこともあり、泡沫候補として切り捨てることはできない。

現時点ではバイデン候補が頭一つ抜けている状況だが、事前の世論調査は必ずしもあてにならないことは経験済みだ。有権者が今後トランプ大統領に勝てる候補という基準を重視するなら、突拍子のない候補が人気を集める可能性もあり、大番狂わせはありそうだ。

トランプ大統領が再選する可能性は? 

トランプ大統領が再選する可能性は、2016年の大統領選挙で勝利する可能性より高くなっていると考えられる。

その理由として、好調な経済、歴史的に現職が有利である事(戦後再選できなかったのは2人だけ)、そして「政治の素人」であったトランプが、税制改革や規制緩和など曲がりなりにも「実績」を作ったことがある。また、強硬的な対中姿勢は、超党派で支持を得ているとも言われている。

もちろん、ポピュリズムに乗って大統領になったトランプ氏が初めて直接審判を受ける選挙でもあり、ロシア疑惑などで不利な証拠が出てくれば、一気に支持を失うこともありえる。先の中間選挙では中西部で共和党が下院や知事のポストを多く失ったことも、トランプ大統領に逆風が吹いていることを示唆している。

事前予想はあてにならないことを心に留めておきながら、4年に一度の祭典の行方を注視していきたい。

 

コラム執筆:阿部 賢介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所