米中通商問題の再燃で中国株は大幅に下落

5月中旬から下旬の中国株は、米中通商問題や米国によるファーウェイ(華為技術)への制裁問題、さらには中国の顔認証技術企業の曠視科技、ビデオ監視機器メーカー杭州海康威視数字技術など、中国企業5社について米国がブラックリストへの掲載を検討していることなど、米中関係の不安材料がくすぶる中で下落しています。

米国が中国に次々と攻撃的な政策を打ち出してくる一方で、中国の習近平国家主席は、今は新長征であり、われわれは最初からやり直す必要があると発言しました。米国との長期戦に向けて国民を鼓舞し、譲らない姿勢を示しており、米中の対立は長期化しそうな見通しです。

上海総合指数は100日移動平均線、香港ハンセン指数は200日移動平均線まで調整してきており、株価のリズムも株価が上昇する日は出来高が少なく、下落する日は出来高を膨らませて下落するという、下落トレンド時特有のリズムとなっています。

【図表1】上海総合指数
出所:マネックス証券作成

2018年の米中貿易戦争第一ラウンドでは、ファーウェイと同業の中興通訊(ZTE)を米市場から締め出して操業停止に追い込むという強力なカードが切られ、それを機に中国株はより深く下げていきました。

今回、制裁の対象となったファーウェイは中興通訊よりも遥かに規模が大きく、中国ハイテク産業の根幹を成す最重要企業です。また米国にとっても取引企業が多く、米国の景気を冷やす恐れもある思い切ったカードであると思います。

中興通訊への制裁は最終的にトランプ大統領が取り下げ、以降、和解ムードとともに相場も回復へ向かいました。今回はファーウェイへの禁輸措置が取られたわけです。ファーウェイは2019年上半期に利用する米国製品の在庫を調達済と言われますが、半年後には操業不能になる恐れがあり、在庫が底をつく前に交渉が進むことを期待したいところです。

米中の財政投資拡大と金融緩和政策に期待

もっとも、悪い話ばかりではありません。今回の米中の問題は単なる関税の掛け合いの問題などではなく、本質は大国同士の覇権争いです。覇権争いであることから負けるわけにはいかないのですが、それが為に自国経済を悪化させるわけには行きません。

自国経済が悪化してしまうと、協議の際にある程度のところで妥結せざるを得ない状況に追い込まれる可能性もありますし、現政権としては国内の政敵から厳しい政争を仕掛けられる可能性も出てきてしまいます。米国は来年大統領選挙ですし、習近平政権としては、江沢民派に反撃のチャンスを与えてしまうことになります。

実際のところ、中国政府はこの危機をチャンスに変えるとして、金融緩和や一層の財政投資拡大を行う可能性を示唆しています。また、トランプ政権は2兆ドルのインフラ投資計画を目指すことで、民主党と合意したことを今月初めに明らかにしています。

したがって、貿易問題は継続しつつも、米国と中国による金融緩和や財政投資拡大の効果から、株価はそれほど大きな落ち込みとはならず、緩やかな下落基調の中、何らかの解決を待つような形になるのではないでしょうか。

そして、米中の財政投資が拡大されている中で、たとえばファーウェイへの禁輸解除と引き換えに米中通商協議で何らかの合意が成されれば中国株は大きく上昇する可能性が高いと思います。

前回のコラム「中国株、セルインメイの格言通り下落基調に」でも書きましたが、5月~10月は株価が上昇しにくい6ヶ月であり、11月~4月は株価が上昇しやすい6ヶ月という世界的な株価のアノマリーがあります。

おそらく今年もそれに近い形の株価推移になるのではないかと予想します。10月頃までに米中問題に何らかの決着が付き、11月頃から株価が上昇していくシナリオです。したがって、5月~10月の期間に株価急落が発生したタイミングはチャンスと捉えることができるのではないかと思います。