下げ相場を知らないミレニアル世代

2019年、米国では人口構成にある変化を迎える年となる。1981年から1996年の間に生まれた「ミレニアル世代」と呼ばれる人々の人口が、いよいよ「ベビーブーマー世代」の人口を上回る。米国国勢調査局のデータによると、今年「ベビーブーマー世代」の人口が7200万人になるのに対して、「ミレニアル世代」は7300万人になるという。

以下は米国における世代別の人口予測である。2050年には「ベビーブーマー世代」は1700万人まで落ち込む一方、「ミレニアル世代」とその1つ上の「ジェネレーションX世代」を合わせた人口は1億2000万人程度になると見込まれている。

ミレニアル世代が投資を始めたのは、2007年~2009年の資産価格崩壊後で、ミレニアル世代は下げ相場を知らない。「上がるから買う、買うから上がる」という相場しか知らないのだ。

出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート(パン・ローリング)


陰鬱博士と呼ばれるマーク・ファーバーはThe Gloom, Boom & Doom Reportで、

ミレニアル世代の多くはおカネを持っていない。だが、ファンド運用会社で働いている。そのほとんどが投じているのは他人のおカネだ。1985年以降に生まれたミレニアル世代はFAANG(フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフリックス、グーグル)といった類の銘柄で陶酔感に浸る小さな集団を形成している。彼らはここ数年、FAANG系株式への投資を推奨したことで尊敬を勝ち取ってきた。市場平均を大幅に上回った成績を出してきたからだ。だが、大部分の市民はバブルに関与していない。ほとんどの人に貯蓄がなく、そのため投資ができないからだ。しかも、バブルがあまりにも広範囲に及んでいるため、それを識別して参加できない

と、“史上最少の一般参加者による”史上最大の資産バブルに注意を促している。

●世代別の人口予測と世代の定義

出所:ピューリサーチセンター

毎年1%弱ずつ人口が増加している国で、同じく国勢調査局のデータによると2017年時点の人口は約3億2100万人と日本の3倍近くである。

少子高齢化が進む日本においては、人口の話になると「65歳以上の人口が4割」と言ったニュースを聞き慣れているため、これだけ若い世代が多いと言うことに意外感があるかもしれないが、米国だけではなく世界的にみても「ミレニアル世代」の人口は膨らんでおり、企業にとっても魅力的な市場となっている。

出所:米国国勢調査局のデータより筆者作成

「ミレニアル世代」の消費から利益を得られる銘柄は?

「ミレニアル世代」は、幼い頃からインターネットや携帯電話等のデジタル端末が身の回りに当たり前にあるデジタル・ネイティブでもある。消費に対する特徴としては、家や自転車、車、本、音楽等は所有よりもシェアリング、「モノ」消費よりも「コト(体験)」を好む、また高級ブランド品ではなく品質の良いものやコストパフォーマンスの優れたものを購入すると言ったところだろうか。

また、SNSサービスにより体験をシェアしたり、ネット上の口コミや評価を重視したりと、購入する前にネットでリサーチは当然。さらに、ダイバーシティや環境への関心も高く、社会的な活動をしている企業の製品やサービスを好んで利用する特徴があるようだ。

こうした消費者の変化がある中で、今後、どんな企業が恩恵を受けるのか、バロンズに「5 Stocks to Ride the Coming Wave of Millennial Spending  ミレニアル世代の消費の波に乗る5銘柄」と題する記事が掲載されていた。以下、内容をかいつまんでご紹介する。

アクセンチュアによると、2020年までに米国における「ミレニアル世代」の支出は 1兆4000億ドルに達すると予測されている。これは米国における総消費額(推定) 5兆7000億ドルの約4分の1に相当。消費者の収入は30代後半から40代に上昇するが、その後、50代で先細りになる傾向がある。「今後10年、ミレニアル世代の支出は増加するだろう」とピューリサーチセンターの主任研究員Richard Fry氏は指摘する。

しかしながら、人口動態の変化はすべてプラスに向かうわけではない。団塊の世代が定年を迎え、貯蓄で暮らす生活になるため消費は少なくなる。一方、40代と50代の「ジェネレーションX世代」は、一世代前ほど人口が多くないため消費の落ち込みにつながる。「ミレニアル世代」の収入が最終的には増えれば、そうした消費の緩みを埋め合わせてくれるが、それはある日突然起こるわけではない。その間、投資家はどんな企業や業界が恩恵を受けるのかを探すべきであろう。

そこで、バロンズは「ミレニアル世代」の消費から利益を得られるであろう5銘柄を選んだ。

【ズオラ(ティッカー:ZUO)】

サブスクリプションサービス(定期購読サービス)が伸びている。アクセンチュアによると「ミレニアル世代」と「ジェネレーションZ世代」の77%がサブスクリプションに関心があると答えている。現在、家具(IKEA)や電動歯ブラシヘッド (フィリップス) 等、いくつかの企業が製品のサブスクリプション収益モデルを採用しており、こうした変化はズオラにとってチャンスである。

ズオラはサブスクリプションビジネスに関わるバックオフィス処理を行うプラットフォームを提供している。顧客は自動車メーカーのGM(ティッカー:GM)やフォードモーター(ティッカー:F)、韓国の起亜自動車、トヨタ自動車、クラウドサービスを手がけるボックス (ティッカー:BOX)、キャタピラー (ティッカー:CAT)等である。

例えば、キャタピラーの採掘機は、GPS とロボティクスを使用してリモート運用されている。顧客は、機器のメンテナンスとアップグレードのためにサブスクリプションベースで料金を支払い、ズオラのサービスを使用してサブスクリプションの収益を処理する。トラック運送会社は、トラックが移動した場所だけではなく、稼働時間と距離を追跡して、ズオラのサブスクリプションソフトウェアを使用してサービスを提供している。

ズオラの売上高は、2019年度の 2億3500万ドルから2020年1月期には2億9200万ドルに達すると見られている。アナリストによると、今年度は1株当たり43セントの赤字になると予想。しかし、損失は収益が増加するにつれて減少し、キャッシュフローは営業費用の多くをカバーしている。新たに株式を発行する必要なく、数年間のビジネスを維持するために必要な現金1億8000万ドルがバランスシートに計上されている。

【ファーフェッチ(ティッカー:FTCH)】

コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーによると、2025年には高級品の25%がオンラインで購入され、2018年の10%から大きく伸びると予想されている。その成長の大部分は「ミレニアル世代」と「Z世代」によるもので、購買額は高級品売上全体の45%となり2017年の32%から上昇する。

ファーフェッチは高級ブランドのオンラインプラットフォームを展開。ファッション雑誌とハイエンドブティックを合わせたようなもので、買い物客は数百のブランドを閲覧したり、セレブのようにコーディネートされたスタイルを購入したりすることが出来る。

オッペンハイマーのアナリストJason Helfsteinは、高級ブランドは出品や価格設定、消費者の動向や好みを自分たちで管理できるため、ファーフェッチを活用していると指摘した。

サイト上の商品の合計価値は2018年で14億ドルに達し、2017年の9億1000万ドルから上昇。アクティブユーザーは93万6000から135万に増加した。また、中国のJDドットコム (ティッカー:JD) から中国のラグジュアリーECサイトの中国事業を統合した他、プレミアムスニーカーのStadium Goodsを買収した。

リスクとしては、成長地域である中東およびアジア太平洋地域での売上減速が挙げられる。アナリストによると、2019年に1株当たり45セント、2020年に61セントの損失を予想している。金融データーサービスのFactSetによると、株価は売上高に対して11倍、業界平均より50% のプレミアムで取引されていると。

Rowe PriceのファンドマネージャーJay Nogueiraはファーフェッチのビジネスはアマゾンからの攻撃にも強いと見ている。「ハイエンドブランドはアマゾンへの商品掲載は望んでいない」と指摘。「ファーフェッチがアドレス可能な市場は大規模であり、このようなプラットフォーム企業は勝者になる。」

【ホーム・デポ (ティッカー:HD)】

国勢調査局によると、持家に住んでいる世帯数は2016年前半の62.9%から2018年の後半には 64.8%と増加した。Pat Tschosikは、不況や弱い雇用市場を受けて、住宅の購入を見送っていたミレニアル世代がおり、少なくとも200万の住宅に対する需要が停滞していると見積もっている。

初めて住宅を購入する場合、中古を購入するケースが多い。新築はより高価になる傾向があり、新築購入者の平均年齢は47である。「ミレニアル世代」が中古住宅を購入し、それらを修理するため、ホーム・デポにメリットがある。賃金や住宅価格の上昇とともに、可処分所得が増え改築への支出が増える。

ホーム・デポは競合するロウズ(ティッカー:LOW) よりも良い場所に店舗を持っていると、RBCのアナリストScot Ciccarelliは指摘する。ホーム・デポの店舗の多くは都市部に位置し、来店率が高く、成長率と利益率の高い事業である専門業者に対する販売を強化している。

ホーム・デポの店舗はより高い世帯収入を持つ地域に集中しており、そうした全てがホーム・デポに構造的優位を与えるだろうと。また、ホーム・デポはアマゾンをかわすためにeコマースに多額の投資をしている。大型商品の当日または翌日配達を拡大するために、今後数年間で12億ドルを投資する。

住宅を取り巻くマクロ環境が悪化すれば、株はアウトパフォームしないだろうが、人口統計的には追い風が吹いており、一店舗当たりの売上と利益率を改善する計画を実行できれば、株価には上昇余地があろう。利回りは2.7%、市場価値の約7%に相当する 150億ドルの自己株買いを承認した。Ciccarelli は、来年にかけて2019年の利益の22倍に相当する223ドルに上昇するだろうと見ている。

【ラブサック(ティッカー:LOVE)】

アパートから持ち家に移動する家族は家具の支出を増やす傾向がある。それは「sactionals」と呼ばれるモジュラーカウチを作るラブサックにメリットがある。ラブサックのカウチや家具は、組み立て直したり、アクセサリーをつけたり、レゴのピースのように数千種類にカスタマイズすることができる。クッションはリサイクルボトルから作られており、持続可能な製品を求めるミレニアル世代には重要なアピールとなる。

株式を所有するワサッチマイクロキャップバリューファンド のポートフォリオマネージャーBrian Bythrowは「彼らは業界では破壊者として知られている」と。粗利益率は55%で、リストレーション・ハードウェア (ティッカー:RH) のようなライバルを収益性で上回っている。ラブサックは去年6月に16ドルで公開され、現在42ドルで取引されている。アナリストは、2020年1月期は1株当たり22セントの赤字だが、次の会計年度には7セントの黒字になると予想している。企業価値は売上の3倍となっており、家具小売業界の平均をかなり上回っている。

【ナイキ(ティッカー:NKE)】

ナイキは製品ラインアップと実店舗におけるショッピング体験に常に新しい驚きを与えることに取り組んでいる。アクセンチュアのJill Standishによると、ナイキは店内での経験とデジタルショッピングをブレンドするために膨大な財務資源を投入しており、「ナイキの店の経験はインスタ映えがする。」と指摘している。

Canacoord GenuityのアナリストCamilo Lyonによると、ナイキのアプリは若い買い物客の共感を得ており、「あらゆるビジネスの要素においてユーザーエクスペリエンスを最大化することに焦点を置いている。」と指摘している。また「上場企業の中でナイキはミレニアル世代の人口動態と、変化し続けるショッピング行動に対処するため、素早く戦略を転換した。」とのこと。

ナイキ株は5月に終わる会計年度収益の33倍と高価に見える。しかし、Camilo Lyonによると、ナイキのマルチプルは歴史的には利益成長が加速している会社としてはおかしくない。前年比の利益成長率は、2019年度の 4.9% から2020年度には19.2% に上昇すると予想している。

さらに、大量の自社株買いができるほど財務体質は強固だ。株価は今年15%上昇して85.50ドルとなったが、この12か月で更に上昇し96ドルになる可能性があるとCamilo Lyonは予想する。

十分なお金がなくとも今後の米国の消費や株式運用を牽引する世代

GOBankingRatesの2016年の借金調査では、18〜24歳の36%と25〜34歳の40%以上が学生ローンの借金を抱えている。若いミレニアル世代の72%とそれ以上の年齢のミレニアル世代の61%が、現在、6ヶ月の生活費をまかなうのに十分なお金がないことを認めている。

●25〜34歳のミレニアル世代の普通預金残高

それでも、米国の消費や株式運用はミレニアル世代が牽引していくことは間違いないだろう。

●バロンズ関連銘柄

出所:筆者作成

石原順の注目銘柄

S&P500が史上最高値を上抜いた。2009年からの推進波(上げ相場)はまだ継続しており、2016年から始まった第5波(上昇5波)がまだ続いているという解釈となる。これで、とりあえず三尊天井疑惑は払拭され、エリオット波動のカウントは以下のように修正される。

2016年以降の5波動の中でのカウントの打ち直しであり、大幅なカウントの修正が必要になるわけではない。すなわち「2009年から始まった強気相場の最終波動である」という認識は変えていないということである。

●S&P500(週足)と波動カウント

出所:筆者作成

厄介なのは、第5波というのは「短縮」も「延長」もするという最も不確かな波動であるということだ。

第5波は乗り遅れた投資家などの押し目買いやバブル的な熱狂によって急騰する可能性があると同時に、急落や高値掴みのリスクも伴う。だから、どこで降りるかという利益確定のタイミングが非常に重要であるが、相場の天井を当てるのは、底を当てるより10倍は難しいと言われている。特に、最高値更新相場というのは高値の目安がない。

もう少し長期的な視野で相場を見てみよう。いつの相場も投資家の多くは、結局、バブル崩壊に巻き込まれて大損して終わることになる。それが市場の基本原理である。バブル相場は「押し目買い」という過去の成功体験があだとなって、相場が天井を打っても相場から降りられないからだ。

筆者が言いたいのは、相場がどこで天井を打つのかは分からないが、「5波動目=相場の最終波動にはしがみつかない」ということである。たとえ、最後の上げを取り損ねることになっても…。

2019年は保有の年ではなく、売買の年であろう。筆者は2017年の6月から8月に2008年の金融危機直後に買った株の長期投資のポジションを手仕舞った。2018年の途中まで相場は上がったが、2018年以降の相場では、「短期から中期タームで買ったり売ったりする」というトレーディングベースで対処している。

イーベイ(ティッカー:EBAY)NASDAQ<スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>

【図表1】イーベイ(日足) 順張りのレンジブレイクトレードモデル
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

ホーム・デポ (ティッカー:HD)NYSE<スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>

【図表2】ホーム・デポ(日足) 順張りのレンジブレイクトレードモデル
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

ターゲット(ティッカー:TGT)NYSE <スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>

【図表3】ターゲット(日足) 順張りのレンジブレイクトレードモデル 
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

アップル(ティッカー:AAPL)NASDAQ <スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>

【図表4】アップル(日足) 順張りのレンジブレイクトレードモデル
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印)
出所:筆者作成

ナイキ(ティッカー:NKE)NYSE<スウィングトレード=トレーディングベースで売り買い>

【図表5】ナイキ(日足) 順張りのレンジブレイクトレードモデル
トレーリングストップライン①=蛍光緑・トレーリングストップライン②=紫・売買シグナル 買い=緑の↑(矢印)・売り=赤の↓(矢印) 出所:筆者作成


日々の相場動向については、ブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。