これまで円安を予想していたゴールドマンサックスが円強気予想に転じました。今後1年で108円まで徐々に円高ドル安が進行するというものですが、10月に日米の株価が大きく下落しても動じなかったドル/円相場が、この先下落して行くというのはどういうことなのでしょうか。
2018年、ドル/円相場はVIXショックでは年初の112円台から104円台まで8円もの円高ドル安進行となったのですが、10月の株式下落時には114円台から111円台に3円程度下落しただけでした。株式下落に相関しなくなったドル/円相場の背景には、ゼロ金利にあえぐ日本の機関投資家勢が利回りを求め外債投資を積極化しているため、下値が支えられていると指摘されてきました。
日本国債は長期債でも高くても利回り0.2%程度ですが、米国債は3%を超える利回りがあります。この金利差を求めてマネーが日本から米国に流れる過程で、円売りドル買いが起こっていた、というものですね。
しかし、足下ではドル/円相場が下落基調に入ってきています。ゴールドマンサックスはここからの円強気(ドル/円相場下落予想)の理由として米国の経済成長減速と、日本銀行の景気刺激策縮小見通しを指摘しています。足下では米国経済は絶好調とされていますが、市場関係者の間では米国景気後退の「炭鉱のカナリア」探しが静かなトレンドとなりつつあります。
炭鉱のカナリアとは危機が迫る予兆を知らせるものですが、米景気後退入りを示唆する指標として有名なのが「米国債長短金利の逆転」があります。通常、金利は長期になればなるほど高くなります。しかし、近年では短期金利上昇の勢いが強く、短期金利と長期金利の差が縮小しています。過去の経験則から、短期金利が長期金利を追い抜いて逆転してしまうと、ほどなくして(半年から1年後ほど)で米国は景気後退(リセッション=2四半期連続でGDPがマイナス成長となること)が起きることが確認されています。
他にも、
「景気先行指数が前年同月比でマイナスとなると1年弱で、」
「住宅系指標がピークアウトすると1年ほどで、」
「企業利益率(企業利益/国民所得)がピークから3%程度低下するとほどなくして、」
「ISM製造業景況指数がピークアウトすると、、、」
などなど、市場関係者がウォッチするカナリア指標は多岐に渡ります。その全てを検証していませんが、市場では2019年~2020年には米国は景気後退入りするとする見方が増えつつあります。
こうした中、先週11月16日、FRBのクラリダ副議長が政策金利について「(景気を過熱も冷やしもしない)中立金利に近づいている」と述べたことを受け、米国債利回りは急低下となりました。今後FRBによる利上げ回数は想定されるほど多くはないとの見方が一気に広がったのです。
年内は12月FOMCでの利上げはほぼ織り込まれているとされてきましたが、CME Fedウォッチの12月の利上げ織り込みは70%前後に留まっており、12月FOMCでの利上げにも懐疑的なムードも醸成されつつあります。仮に12月の利上げがあったとしても、2019年はどうでしょう。中間選挙ではねじれ議会となった米国トランプ政権が通せる政策も限定的になるとみられる中、3回も利上げできる強さが続くでしょうか。
米国利上げの打ち止め時期はいつか。これが為替市場の新たなテーマとなりつつあります。そうなると利上げを見込んで買われてきた米ドルの上昇にもブレーキがかかることに。他方、イタリア財政問題やドイツの政情不安に揺れる欧州ですが、金融政策だけを見れば年内にECBによるQE(量的緩和策である資産購入プログラム)は終了する見込みで、来年夏以降には利上げが見込まれています。日銀の金融緩和策は継続中ですが、その継続には限界があるとして出口論も活発化してきています。
となると、2018年ドル一強であった相場はいよいよ終盤。ドル安がトレンドとなる相場が近づいているとの見方が広まりつつあり、ゴールドマンサックスの円強気転換は市場の変化を確信的にする象徴的なニュースであると思っています。