「キャリー通貨」だった日本円のポジションが一気に逆流
金利の低い通貨を借りて金利の高い通貨に投資すれば、その金利差分スワップ収入を得ることができるとして、低金利の日本円は「キャリー通貨」とされてきました。
2024年3月にマイナス金利を解除し、7月に利上げを実施したとはいえ、まだ日本の政策金利は0.25%で世界の金利と比べると圧倒的に低く、投機家らは通貨先物市場で円売り米ドル買いのポジションを積み上げ、これが市場のファッションとなっていました。2024年7月に米ドル/円相場が161円台まで上昇したのは、投機的筋らによる通貨先物市場での円キャリートレードが膨張したことが指摘されています。
しかし同月、日本の通貨当局による為替介入と日銀の利上げが実施されたことで投機筋の円キャリーポジションが一気に逆流し、米ドル/円相場は真っ逆さまに下落、9月には140円割れを示現。20円もの円高・米ドル安となりました。
米金利高は持続の見通し、縮まらない日米金利差
2024年9月、FRBは0.5%の利下げを決定。いよいよ米国も利下げサイクル入りで日米金利差が縮小するフェーズにあるのですが、足下では想定より米国景気が強く、2025年の利下げペースは著しく鈍化することが予想されています。バンク・オブ・アメリカは「利下げサイクルはすでに終了、次の一手は利上げだ」と予想を修正しています。米金利高は持続しそうです。
加えて、2024年12月の利上げが予想されていた日銀は12月利上げを見送り、今後の利上げに対し慎重なスタンスを示したことから、市場では想定したほどに日米金利差が縮小しないのでは?という観測も台頭しています。現状で長期金利の日米金利差は3.4%程度ありますが、3%を超える金利差があればキャリートレードに妙味があるとも言われているため、円キャリートレードが再燃するのでは?という警戒もくすぶります。
円キャリートレード再開の条件は?
本当に円キャリートレードは復活するのでしょうか?
1月に入り、日銀の氷見野副総裁が金融経済懇談会での講演で1月会合での利上げについて「利上げをするかどうか政策委員の間で議論し、判断したい」と述べたことや、植田総裁が全国地方銀行協会の会合挨拶で「来週の金融政策決定会合で利上げを行うかどうか議論し、判断したい」とコメントしたことを受けて、市場では1月23~24日の日銀会合での利上げ織り込みが上昇しています。12月時点では春闘の動向を見たい、もうワンノッチ情報がほしいとしていた植田総裁。市場は3月まで利上げがないのでは、と利上げ観測を後退させていたため、これらの発言はややサプライズとなりました。
米ドル/円相場はこのところのレンジ下限であった156円節目を割り込んで円高方向に動き出しています。結局、利上げのタイミングがいつになるかというだけの話で、日本は利上げのサイクルにある、ということが米ドル/円相場の上値を抑えているのでしょう。
利上げサイクルにある円を売るキャリートレードを再開するより、利下げが確実視されるユーロやポンドを売って米ドルを買うほうが安心感がある、というのが投機筋らの本音かと思われます。ユーロ/米ドルは1ユーロ1米ドルの等価となるパリティがターゲットとの見方がコンセンサスとなりつつあります。
足下では、日銀の利上げが気がかりで円キャリートレードを再開する短期筋は多くない印象です。もし2025年、円キャリートレードの再開があるとすれば、米国が利下げ打ち止め、そして日銀の利上げ打ち止め観測が台頭するころとなるでしょう。その時の日米金利差が3%を超えていたなら、と考えています。