米中首脳会談を前に追加関税が再び注目の対象に

11月1日に習近平国家主席と電話会談を行ったトランプ大統領は、首脳間の意思疎通の重要性を語り、11月末にブエノスアイレスで開かれるG20首脳会議での習氏との会談に期待を示した。

6月の金正恩との会談同様に、トランプ流の「駆け引き」による紆余曲折が予想されるが、首脳会談が実現すれば米中貿易戦争の激化する米中間での関係改善の1つの機会になるかもしれない。

だがそうした期待感と表裏一体で、市場では更なる米中貿易戦争の激化、より具体的には米国による中国への「第4弾」となる追加関税発動への懸念が膨らみつつある。

9月17日時点で、トランプ政権はそれまでの追加関税対象から外れていた、全ての品目に対する第4弾の追加関税の可能性について言及していた。予定される米中首脳会談での成果が芳しくないものに終われば、第4弾の追加関税の発動は一層現実味を帯びる。

第3弾までの追加関税の試算

第1~3弾という言い方で誤解が生じがちだが、今回の米中貿易戦争における米国から中国への最初の追加関税は、3月に発動された通商拡大法232条による鉄鋼・アルミ製品への課税である。この232条による追加関税は中国だけでなく、一部例外を除いた全ての国を対象とするものであり、中国単体でみると対象となる輸入額は約34億ドルと比較的限定的だった。

【図表1】 第3弾までの対中追加関税
出所:USTR発表資料、USITC貿易統計等から丸紅作成

やや脱線となるが、米政府の発表した貿易額の規模と試算値の間にずれが存在する理由は大きく2つある。

第一の理由は、いずれの追加関税においても、対象品目リストが発表された後に60日間の意見公募(パブリックコメント)期間をおいて、一部品目の免除が行われるためである。例えば9月24日に発動した第3弾の意見公募では、アップルウォッチなどの製品が免除品目となった。第二の理由は、参照する貿易統計データが更新されるか、そもそも参照する貿易統計が異なるためである(注1)。

第4弾はこれまでの追加関税の合計を上回る規模が見込まれる

では、残る全ての品目が対象になるとされる第4弾の追加関税は、仮に発動した場合、どれほどの規模でどのような品目が含まれることになるのだろうか。

トランプ大統領は、記者会見などにおいて、「第4弾」の追加関税の規模を「2,670億ドル」と発表している。最も新しい貿易統計を基にした著者の試算によると、「第4弾」追加関税の課税対象は、2017年の貿易額で2,904億ドル規模になると予想される。これは中国から米国への輸出額(5,055億ドル)の約58%である。

【図表2】 第4弾対中追加関税の推計
出所:USTR発表資料、USITC貿易統計等から丸紅作成

品目の面でも、第3弾で課税を免除されたスマートフォンなどの通信機器(230億ドル)やパソコン関連製品・部品(116億ドル)を筆頭に、最終消費財が多数含まれる。第3弾の時点でもテレビなどの家電製品が含まれていたが、第4弾が発動すれば最終消費財への関税による価格上昇の圧力はより一層広範囲に及ぶ。

第4弾発動のシナリオを変更しうる「不測の事態」は見当たらない

目下のところ、第4弾の追加関税発動のシナリオを変更しうる「不測の事態」はみえない。

11月6日の米中間選挙は、大方の予想通り下院の過半数を民主党が獲得し「ねじれ議会」が成立したが、対中政策への影響は小さいとみられる。10月初旬に急落した米株式市場も値を戻しつつあり、米経済の減速が中国との妥協への圧力となるのは当分先になりそうだ。逆に、足元の中国経済の停滞に付け込んだ強硬なディールをトランプ政権が推し進めようとすれば、中国側は一層頑なになるだろう。

仮に米中首脳会談で成果が見られず12月初旬に米国が第4弾関税リストを発表した場合、発動は60日間の意見公募期間を経て来年2月頃になると予想される。また、年明けには、第3弾対象品目への追加関税率を10%から当初の25%まで引き上げることが予定される。

第3弾追加関税発動後、目立った動きのなかった米中貿易戦争が再び大きく動こうとしている。

 

(注1)本コラム内の試算は、米国国際貿易委員会(USITC)の貿易統計データベース(2018年7月2日更新)の2017年貿易額を参照した。

 

コラム執筆:坂本 正樹/丸紅株式会社 丸紅経済研究所