世界の株式市場が大幅下落となった10月。特に中小型株の下落が大きく、個人投資家のマインドがすっかり冷え込んでしまいましたが、11月は過去の経験則から日米株価の大幅反発が見込めそうです。NYダウ平均は1991年以降の陽線陰線を数えると19勝8敗。日経平均は1995年からカウントして17勝6敗と圧倒的に上昇確率が高いことが検証できます。今年は10月に十分な下落を演じましたので、相応の戻りが期待できそうですがその場合、米ドル/円相場の上昇も期待できるでしょうか。

10月、日経平均は24,448円(10/2)の高値から20,971円(10/26)の安値まで3,477円も下落しました。14.2%の下落です。ところが米ドル/円相場は114.54円(10/4)から111.37円(10/26)までわずか3.17円の下落に収まりました。この間の下落率は3%弱にとどまっています。株価下落にも米ドル/円が底堅い理由として、本邦勢による対外直接投資が旺盛であることが指摘されてきました。

2018年1-8月の対外直接投資は累計11兆3446億円、過去最大であった2017年の同期間の12兆8319億円に並ぶペースであり、日本企業による海外企業のM&A(買収)や外国債券投資などが旺盛で、日本円から外貨へ、米ドルや欧州ユーロなどへ投資されたことで、円売り米ドル高、ユーロ高が進行したということですね。リスク回避相場でも、旺盛な実需による米ドル買いが投機による変動を抑え込むようになってきた構造的な変化が、今後も米ドル/円相場を支えていくとの予想も増えてきています。

しかし、米ドル/円相場のアベノミクス相場以降の高値は2015年6月の125.80円台です。現在は下値が固いとはいえ111~112円台にあり2015年の高値を更新していません。日経平均の2015年6月の高値は20,952円。今年の10月の高値は24,448円と3,400円あまりも高値を上回っています。

逆説的に言えば、これだけ株価が上昇する過程でも米ドル/円相場は全くついてきていなかった、ということです。要するに大局的には日本株と米ドル/円相場の相関性はすでになくなってしまったと。ですから、11月に株価の大きなリバウンドがあったとしても、米ドル/円相場が再び高値を更新することはないと考えています。

2018年の米ドル/円相場の高値114.55円と安値104.56円の値幅は9.99円。1990年以降で最も小さな値動きに終始しています。直近では2015年にわずか10.01円しか動かなかった年がありますが、翌年2016年には年間変動幅が22.67円にも上る大きな動きとなりました。小動きとなればなるほど、マーケットにはエネルギーが溜まります。トレンドができるや否や一方向に大きく変動する可能性を秘めた状態と言えるのです。

では、この9.99円の狭いレンジを抜けるなら、米ドル高方向でしょうか、それとも米ドル安方向でしょうか。その答えを導く一つの材料に米国の赤字拡大があげられます。

米財務省が10月15日発表した2018会計年度(2017年10月~2018年9月)の財政赤字は、前年度比17%増の7789億9600万米ドル(約87兆円)となり3年連続で赤字拡大となりました。大型減税や国防費を中心とした歳出拡大を進めたことが背景ですが、実は赤字拡大は為替レートに大きな影響を及ぼします。

一般的には、貿易赤字国は支払い超過となるため、対外債務が拡大し破綻する可能性が懸念されて通貨が下落するリスクとなります。2018年夏場までに起こっていた新興国通貨安はトルコなど貿易赤字国で顕著にみられました。

基軸通貨国である米国は貿易代金を自国通貨で支払うことが可能ですが、新興国は貿易で支払いに充てる基軸通貨の米ドルが必要です。準備通貨として一定の米ドルを調達する必要があり、また潤沢な外貨準備は国の信認にもつながるため、米ドルは常に需要があります。故に米国の赤字拡大は必ずしも米ドル安要因であるとも言い切れないのですが、15日発表の米国の赤字はGDP比で3.9%にまで拡大してきました。前年度から0.4ポイント上昇となっています。

米国は1兆5000億米ドルの減税に加え、向こう2年に政府支出を3000億米ドル近く増やすとしており財政悪化は目に見えています。減税による効果で個人消費が旺盛となり内需を押し上げることで貿易赤字も増加してきており、市場では「双子の赤字」が米ドル安をもたらすとした指摘が再燃し始めています。

米国の双子の赤字がGDP比6%に達すると米ドル安に転じるという過去の経験則から、その時はそう遠くないとみられます。日米金利差からは米ドル高円安となるとの見方が大勢ですが、この先、米国の赤字がテーマとなれば米ドルが大きく下落する可能性もあることに留意しておきたいと思います。