11月6日の米中間選挙が近づいてきましたが、米国株式市場、ダウ平均は200日移動平均線の攻防。業績相場が本格化する中、マーケットは慎重なムードに支配されています。その背景として中国経済の減速、下落が続く上海総合指数が日本株市場の重しとなっているとも指摘されていますが、加えてサウジアラビアのジャーナリスト殺害疑惑も、仮にサウジに制裁を課すというところまで事態が悪化すれば、世界中に投資されたオイルマネーが逆流するとして警戒されています。
こうした中、トランプ大統領は「中間所得層を対象に10%前後の減税を検討している」と、11月初めまでに具体的な案をまとめる意向を示しました。これまでトランプ大統領の公約であった大型減税を好感して上昇してきた米国株式市場でしたが、この「中間層向け減税案」には反応が鈍いようです。何故でしょうか。
減税ということは、歳入減少ということですから米国の財政赤字は膨らみます。しかしながら、現在FRBはバランスシートの縮小を実施しています。リーマンショック以降、FRBは景気対策として国債などの債券を購入することで市中に大量の資金供給を実施してきました。その結果膨張したバランスシート(貸借対照表)を正常化させるため、現在FRBは保有する債券の再投資額を縮小することで保有残高を減らしています。
つまり、FRBという米国債の大きな買い手の存在が薄くなっていく中で、米財務省は国債を増発せざるを得ないというのが現在の米国の状況なのです。10月15日発表された2018会計年度(2017年10月~2018年9月)の財政赤字は、前年度比17%増の7,789億ドルで3年連続増加となったことが明らかになりました。
さらに中間層に10%の減税発動となれば、さらに赤字は拡大します。財政赤字を穴埋めする米国債増発は、米長期金利の上昇につながります。FRBの政策金利の引き上げとバランスシート縮小に加えて、さらなる減税となれば米国債の利回り上昇は必至。市場には米中貿易摩擦の煽りを受けた中国による米国債の売却の噂もありますが、このような外的要因がなくても米金利は上昇圧力が強まっていることが、今、市場関係者の最大の警戒となっているのです。
中国やサウジなど点在するリスクに加え、高止まりする米長期金利に株式市場は軟調ですが、為替市場では米中貿易摩擦の影響で、中国と貿易量が大きいオーストラリアドルは売られ続けています。このトレンドは年明け1月から10カ月近くも続いており、やや下げ足も鈍ってきました。市場は次なるトレンドとなるテーマを探していますが、注目は欧州通貨。
まず、英国の通貨ポンド。2019年3月29日に英国はEUを離脱することが決まっていますが、離脱条件の話し合いが進みません。先週開催された10月のEUサミットでの合意されることへの期待がポンド買いを誘う局面もありましたが、合意には至らず、11月の臨時サミットも開催されないことが決まりました。
12月の定例サミットでの合意を目指す方針とみられますが、長期化するブレグジット交渉はポンドにはネガティブですが、長引くブレグジット交渉で、英国内の離脱強硬派はメイ首相の不信任を求める動きが大きくなってきており、英国内の政治リスクも高まってきています。
そして欧州通貨ユーロ。イタリアの連立政権は10月15日、期限通りに2019年予算案を欧州委員会に提出しましたが、その中味が問題となっています。欧州委員会は「予算拡大と逸脱の規模は前例がない。歳出が過剰だ。」と指摘し予算案に難色を示しています。
イタリアが予算案の修正をしない方針を明らかにしていますが、欧州委員会は10月29日までにイタリア側に予算変更を求めるかどうかを決める方針で、変更要請がされた場合、イタリアは3週間以内に対応する必要が出てきます。これを嫌気してユーロは軟調推移となっています。
米金利が上昇してきたことで、米ドルを売るとスワップコストが大きな負担となってきており、米ドルは売られにくくなっています。こうした中、英国、欧州が抱えるネガティブ材料が為替市場での米ドル買い、欧州通貨売りのトレンドを強めていくのではないでしょうか。