今週の相場は、ムニューシン米財務長官が言及した為替条項を巡って、市場がどのような反応を見せるかがまず焦点となる。ムニューシン氏はインドネシア・バリ島で開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後に、日本との物品貿易協定(TAG)交渉を巡り「これからの貿易交渉では、どの国とも為替問題を協議していく。日本を例外にすることはない」と発言した。
普通に考えれば円高に振れるだろう。下旬から始まる4-9月期の決算発表での業績上方修正期待に水を差す格好となり、株式市場の悪材料だ。
しかし、冷静に考えれば、そこまで円高材料なのかという気がする。「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に盛り込まれた為替条項の文言は「為替介入を含む競争的な通貨切り下げを自制する」である。日本はもう何年も為替介入をしていない。何をもって通貨安誘導というのか明確ではない。日銀の金融緩和が「結果的に」円安につながることはあるかもしれないが、円安を意図したものと断定できない。仮にトランプ政権がそう批判したところで、かつては米国が大々的なQEを始めたのであって批判されるいわれはない。そもそもトランプ大統領だってFRBの利上げを批判しているではないか。それについてムニューシン氏は、大統領はFRBの独立性を尊重しているという。では、なおのこと、他国の中央銀行の独立性も尊重するべきで、他国の金融政策に口出しできる立場にはなかろう。
「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に為替条項が盛り込まれたが、協定合意以降、カナダドルは対ドルでむしろ安くなっている。カナダは今月下旬に利上げが見込まれるにもかかわらず、である。無論、円とカナダドルは別物だが、為替条項だけで為替相場が規定されるものではないという一例だろう。
米国発の株価急落は、いったん調整完了とみていいだろう。確かに大きな下げだったが、ダウ平均も日経平均も一目均衡表の雲の下限や200日移動平均を割り込むことなく下げ止まった。相場のトレンドは崩れていない。そして何よりも、今回は「2回目」だから多少慣れているところもある。米国長期金利の上昇に対して株価の割高感が意識され大幅調整となったのは2月と同じ。すでに体験済みだから、あまり怖くない。だから恐怖指数 ‐ VIX指数はそれほど上がらなかった。先週末にもう21まで低下。VIXは20を超えると不安心理が高まった状態とされるから、もう平常時に戻る一歩手前まできたということだ。
それでもまだしばらくは安定感を欠いた相場が続く。価格の調整は速くつくが、「玉」の調整には時間がかかるからだ。基本的には戻り歩調だが再び波乱含みの展開にも備えておこう。
19日に中国の経済指標の発表が集中する。7-9月期GDP、小売売上高、鉱工業生産、都市部固定資産投資などだ。今週注目の予定である。もうひとつの注目点は米財務省が今週公表する予定の半期為替報告書で、中国を為替操作国に認定するかどうか。冒頭で述べた為替条項と並んで、今週は米国政府の通貨に対するスタンスが市場の変動要因になる。
今週のレンジは2万2300円~2万3300円とする。