9月16日(日)、大型台風Mangkhutが香港を襲った。まずは被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げたい。実は、筆者が勤めているビルも危うく難を逃れたものである。当行の入って居るオフィスビルは、日本人コミュニティの大きく広がるWhampoa地区にあり、元々造船所で有名になった街だけに、ビクトリア湾に突き出た形で香港島を一望し、西の端から東の端まで見渡せる素晴らしい眺望のオフィスである。訪れるお客様もその圧巻の景色に「ほー」と言ったきり言葉を失う。
その海岸線が突きでた位置が今回の台風では仇になったようだ。アメリカ東海岸を襲ったフローレンスが最大風速150キロ(時速)であったが、その1.5倍以上の破壊力をもった最大風速250キロ(時速)がもろにオフィスビル街を襲い、2つのオフィスタワーを通り抜ける風は更に加速し、ビル同士が向き合った側の窓ガラスが次々と割れていったのである。ガラスが割れて風の吹きこんだオフィスの姿はまるで空爆にでもあった様相であったが、その位強い風圧がかかったのであろう。オフィスの前の道は破壊されたガラス片で溢れた。奇跡的に当行のオフィスは風の通り道の反対側に位置し何の被害もなく、電気も通常通りに流れた。月曜日の朝は数名の社員が交通機関の一部遮断の為欠勤したのを除き、通常営業が可能となった。これこそは、オフィス移転の際に風水師に高い祈祷料をお支払いしただけあったと皆で喜んだものである。
香港の気象警報は、台風に関しては、シグナル1から10まで10段階あり、8以上になるとすべての学校、役所、金融機関、証券取引所も原則閉鎖される。交通機関も地下鉄の一部を除きすべてストップし、人々はスーパーマーケットが閉まるのを予想し買い出しに急ぐ。その間、動くタクシーは通常の数倍の値段を取られる。決して彼らも「雲助タクシー」ではなく、単に事故にあった時に保険が下りないため、リスクプレミアムを乗客に払ってもらっているだけなのである。このような警報システムと街の機能がリンクしているため、市民は安全なところに避難して、じっと巨大台風の襲来に備えるのだ。結果として今回のような未曽有の巨大台風が襲っても負傷者は出ても死者はゼロである。この辺の割り切りの良さは流石香港である。
台風の一連の出来事を株式市場の暴落にたとえた人がいた。10年前のリーマンショックの際に人々はパニックになり、絶望し、保有していた資産を売り急ぎ、嵐の過ぎ去るのを息潜めて待った。そしてそのリーマンショックから10年。今NY株式市場が最高値を付けるのに対して幾つか警鐘が鳴らされている。大型の台風が来襲した際人々は、パニックに陥り買い出しに走る、そしてなんでもっと被害を事前に防げなかったのかと当局を責め立てる。でも台風一過から数週間も経つと人々は忘却の彼方だ。備えあれば患いなしという言葉と共に。

コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先