ポンドが騰勢を強めています。ポンドといえば2016年の国民投票でEUからの離脱を決めたブレグジットの影響で凄まじい勢いで売られた通貨です。下落する前、アベノミクスと日銀の異次元緩和の影響もあり2015年6月、ポンド/円は195円まで買われていました。2016年6月の国民投票に向けて不安心理から売り込まれ、さらにいよいよブレグジットが決定すると英経済への先行き懸念から売りが売りを呼び、ポンド/円は2016年10月に124円台まで下落しています。ポンド/円はわずか1年半弱の間に70円もの下落を強いられました。

以降、ポンド/円はじりじりと下値を切り上げる展開が続いており、足元では下落幅に対してのフィボナッチリトレースメントの38.2%戻しである、152円レベルを上回り一時153円台まで上昇してきました。ポンドの強さの背景は何でしょうか。

◆武田薬品のM&Aへの思惑

3月28日、武田薬品工業がアイルランドの製薬会社シャイアー買収提示を検討していることを発表しました。4月5日には武田薬品工業のクリストフ・ウェバー最高経営責任者(CEO)が、このM&Aに言及。4月12日には武田薬品工業が主要取引先の三井住友銀行や三菱UFJ銀行など複数の金融機関に数兆円の融資が可能か打診していることが明らかとなっています。

シャイアーはアイルランド・ダブリンに本社がありますが、ロンドン証券取引所とNASDAQに上場しているため、買収が実現すれば、巨額の円売りポンド買いが起こるのでは?!との思惑が動いているのです。シャイアーの時価総額は約5兆円とされていますが、株式取得に必要な資金は高めに評価して6兆~7兆円規模と目されており、日本企業のM&Aにしては過去最高。まだ実弾(実際に買収に伴う円売りポンド買いが出ること)が出ているというわけではありませんが、ポンドが動き出したとの指摘が出てきているのです。

武田薬品による欧州大手製薬企業シャイアーの買収で底堅くなっている面もあります。現時点では、本当に買収が可能なのか、またどのような形で買収資金を調達するのかは明らかにはなっていませんが、その規模から、思惑がポンド買いを旺盛にしているという側面もあるのでしょう。

◆ブレントオイル上昇

4月14日、米英仏がシリアへ爆撃したことで、知ったら終いで足下では原油価格が軟化していますが、シリア情勢が緊迫化する過程でWTI原油価格は1バレル67ドル台へ、ブレント原油は1バレル73ドル台へと上昇しました。シリアの原油生産量はごくごく微量ですので、シリアへの攻撃が直接の原油高騰の要因ではないのですが、シリアの背後にはロシアとイランの存在が。特にイランの原油生産量は世界第4位。原油市場はイラン産原油の供給への懸念を織り込み始めています。コモディティ関係者の間で原油価格はさらに上昇するとの見通しが台頭する中、ブレント原油と相関してポンドが上昇しているという見方も。

イギリスは大量の石炭・天然ガス・原油を埋蔵しており、WikipediaによるとイギリスのGDPの10%はエネルギー製品が占めており、この値は先進国では最も高いものです。北海油田があるためですね。イギリスは1990年代に西ヨーロッパではノルウェーに次いで2番目の産油国となっているのです。またイギリスは世界第9位の原油輸出国でもあるため、ポンドは「ペトロポンド」(ペトローリアム(石油)+ポンドの造語)とも呼ばれています。原油高がポンド高を演出しているという側面も否定できません。

◆高まる利上げ期待~金融政策

英国の中央銀行(BOE)は3月22日の金融政策委員会で金利の据え置きを発表していますが、予想に反して委員9人のうち2人が利上げを支持していたことはサプライズとなりました。現時点で次回5月のBOEの利上げの確率は93.8%まで織り込まれています。

利上げの思惑が広がっていることの背景に、英国の消費者物価指数(CPI)が前年比上昇率2.7%で推移しており、BOEが目標とする2%を大幅に超えているほか、11月~1月の総賃金は前年比2.8%増と、2015年以来の大幅な伸びを記録し、実質ベースで約1年ぶりにプラスとなったことなどが上げられます。

また、英国は3月20日、EU離脱に伴う政策の「移行期間」は2020年末までとすることをEU側と合意したことを発表しており、2020年末までは英経済がハードブレグジットによって急激に悪化する懸念が後退したことも利上げに踏み切る可能性の後ろ盾となっていると考えられます。次回BOE会合は5月10日。利上げ思惑から5月くらいまでポンド買いのトレンドが続くことも考えられます。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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