インバウンド関連を見直す
「爆買い」という言葉が流行語大賞に選ばれたのは2015年の年末のことだ。中国を中心とした多くの外国人観光客が銀座を訪れ、デパートで高級バッグを買い占める様子がテレビで報道されたので覚えている方も多いだろう。実際に百貨店やホテルは外国人観光客の増加が追い風となり、業績が大きく好転した。ただ、様々な銘柄がインバウンドへの期待が大きすぎて割高なレベルまで買われたところに、円安進行の一服や中国当局の規制などによりインバウンド期待は急速にしぼんで大きく売られる銘柄が散見された。例えば百貨店の松屋(8237)は2015年8月10日につけた2,592円の高値から、2016年2月12日につけた安値778円まで株価は約半年で1/3まで下落した(チャート参照)。
高すぎる期待と外部環境の変化を受け大幅な調整を余儀なくされたインバウンド関連銘柄だが、筆者は一部の銘柄に見直しの余地があると考えている。その理由は以下の3点だ。
・「爆買い」はしぼんだものの外国人観光客は着実な増加を続けている
・日本政府は3000万人の訪日外国人観光客の目標を掲げており2020年には東京オリンピックもあることから今後も観光客の呼び込みにつながる施策がとられると考えられる
・インバウンド関連銘柄の業績面から見た割高感は解消している
それぞれ詳細をご説明しよう。
インバウンド関連銘柄見直しの理由
まず、外国人観光客は足元でも堅調なペースで増加を続けている。グラフ1は2013年以降の訪日外国人観光客の推移である。今年の7月に268万人と単月で過去最高の観光客数を記録した。9月は228万人で前年同月比18.9%増としっかりとした伸びを記録している。今年に入っての増加率の平均は17.9%である。前年同月比50%増といったような爆発的な伸びを記録する時期は終わったが、20%近い増加は必要十分な伸びに思える。仮に10月から12月にかけても同様のペースで増加観光客が増加していくと仮定すると、2017年1年間の外国人観光客数は2800万人を超える計算になる。「爆買い」は終わってもインバウンド増加の波は終わっていないのだ。
2点目として日本政府が国策として外国人観光客の増加を推し進めている点も非常に重要だ。以前政府は年間2000万人という目標を掲げていたが、早々に達成したため現在は3000万人の目標に変更した。現在のペースで増加が続いたとすると2018年の観光客数は3300万人に達し、現在の目標を達成することとなる。おそらく今後政府は目標を4000万人、5000万人へと徐々に増やしていくのではないか。それにともなって観光客を誘致する施策が様々実施されると考えられる。今後はカジノ施設を含めた統合型リゾート施設の建設の議論も本格化してくるとみられ、それらも追い風になりうるだろう。
最後に、インバウンド関連銘柄の割高感がだいぶなくなったことも見逃せない。以下は「鉄道」、「ホテル」、「家電」、「百貨店」といったインバウンド関連の代表的な銘柄に挙げられていた銘柄について、インバウンドが非常に盛り上がっていた2015年8月末と昨日2017年10月26日の予想PER、PBR、予想配当利回りを比較したものだ。各社とも概ねPERやPBRが低下し、予想配当利回りが上昇している。インバウンド銘柄への過度な期待は剥落しつつあると考えて良いだろう。
以上のような理由から筆者は訪日外国人観光客の増加が業績にダイレクトに効いてくると考えられる事業を行っている銘柄の一部には見直し買いの機会があると考えている。今回は航空関連、鉄道、ホテル、家電量販店、百貨店、ドラッグストアといった主要なインバウンド関連業種のうち足元までの3四半期がいずれも増収増益(営業利益)な銘柄をスクリーニングしてみた。詳細なスクリーニング条件は以下の通りである。ご参考いただきたい。
インバウンド関連の好業績銘柄のスクリーニング条件
・航空関連、鉄道、宿泊、家電量販店、百貨店、ドラッグストアのいずれかのビジネスを展開(筆者がピックアップしたもので必ずしもすべての銘柄を網羅しているわけではない)
・直近3四半期の売上高がいずれも前年同期比増収、営業利益が前年同期比増益
以上の条件でスクリーニングしたところ、ユニゾホールディングス(3258)、アメイズ(6076)、スギホールディングス(7649)、空港施設(8864)、東海旅客鉄道(9022)、サンドラッグ(9989)の6銘柄がピックアップされた。各銘柄の足元の業績は表2、バリュエーションは表3に示したとおりである。
ユニゾホールディングスとアメイズはホテル、スギホールディングスとサンドラッグはドラッグストア、空港施設は羽田空港などの空港施設、東海旅客鉄道は新幹線等をそれぞれ展開している。いずれも訪日外国人の増加が業績の追い風になる可能性は高いと考えられる。参考にしていただければ幸いである。