G7の共同宣言を承認しないというトランプ大統領のツイートがすべてを語る通り、前例がないほど結束を欠いたサミットだった。先進国の首脳が会し話し合っても米国の保護主義に歯止めをかける術はないという諦観とともに始まった今週は「歴史的」というのは大袈裟かもしれないが、「スペシャル・ウィーク」だったことは事実だろう。史上初の米朝首脳会談。具体的なプロセスの確約がなく朝鮮半島の非核化が実現するかはまだ見えない。なんでも物事を否定的にみるのがカッコいいと思っている節のある輩からは米朝首脳会談に批判的なコメントが多く出ている。しかし、米朝首脳会談が友好的に開催されたのは事実だ。少なくとも相場にとって悪い話では決してない。
そして、米国は今年2回目の利上げを行い、欧州も年内で量的緩和を終了させることを決定した。ECBの決定を受けてユーロが売られた。量的緩和の年内終了は織り込み済みだったが、利上げの開始が来年の夏までないということが失望されてユーロの急落を誘ったとの解説があるが、それは的外れだろう。市場は来年6月の利上げを7割がた織り込んでいたはずだ。ノーサプライズの結果となって単に材料出尽くしの売りと見るのが自然だろう。
「単なる材料出尽くしの売り」以上の意味を、この市場のリアクションから読み解くとすればどういうことになるだろうか。ひとつは、マーケットは先読みなどしなくて、目の前のことだけに反応する超短期主義だということだ。ECBの利上げは来年夏までない。しかも南欧不安などがくすぶっていて、それすら確実に実行できるかわからない。米国でさえテーパリングを終了させた2014年10月から2015年末の利上げまで実際に利上げに踏み切るまでには1年以上を要した。現在の超低金利が「少なくとも来年の夏まで」とECBは言っているので、それがもっと長くなってもまったくおかしくはない。
ECBの利上げは「早くとも来年の夏まで」ない。一方、米国は今週開いたFOMCで利上げを決めたが、年内にあと2回、来年は3回の利上げの見通しが示された。来年ECBが利上げを開始するまで最多で4回米国が利上げをする可能性が相当程度ある。遠い先の利上げより、目の前に示されているパスのほうを信頼したくなるのが人情というわけかもしれない。
米国の利上げは今年3回から4回にペースが速まったというが、それは市場にとってはどうでもいい。市場は年4回と織り込んでいたし、そもそもFRBのドットチャートにしたって、ひとつドットが上方修正され7対8で3回だった前回から、8対7で中央値が上がって年4回となっただけのことだ。
それよりポイントは来年の3回。FF金利の予想値は3.1%とFEDが見ている中立金利2.9%を越えてくる。明らかに来年は引き締めモードになる。問題はそれをいつまで続けられるかだ。今はトランプ政権の財政拡張策で景気の過熱感があるがいずれ薄れてくるだろう。秋の中間選挙で民主党が盛り返せばなおさらトランプ政権のばらまき政策もしにくくなる。来年3回の利上げができるかすらわからないが、仮に来年3回の利上げをおこなうとしよう。しかし、そこで打ち止めだろう。一応、2020年は1回の見通しになっているが、中立金利を超える水準の政策金利をそこまで維持できるだろうか。ましてや2020年はトランプ氏にとって再選がかかる大統領選の年だ。景気が下降に向かうなかでの選挙戦は避けたい政権からの意向も強まるだろう。そうなると、現在絶好調の景気を背景に金融政策正常化では米国の独走が際立つが、それも早くも終わりが見えてきたということだ。
今は「金融政策正常化」と言える。しかし、中立金利を越えてくる来年は「金融引き締め」であり、その先にあるのは景気減速であり(景気後退にまでは至らないと思うが)それが大統領選の年にぶつかることを考えれば、利上げは2019年で打ち止めになる公算が高い。
つまりECBが利上げに踏み切ろうという時には米国は利上げの終焉が見えだすという構図だ。今度はユーロの独歩高になるだろう。それが見えているだけにECBは躊躇するだろう。果たしてECBは来年夏に利上げできるだろうか。少しずれ込めば秋になる(夏の次は秋だから当たり前だが)。2019年10月末はドラギ総裁の任期切れのタイミングだ。中央銀行総裁として金融政策正常化の道筋をつけて後進に道を譲るというのは誰もが思い描くシナリオだが...。諸々考えると、2019年にECBの利上げはない可能性がある。足元のユーロの急落はそこまで読んでのユーロ売りなら、市場はやっぱり先読みで動くということになる。
書き忘れた。このスペシャルウィークの中で、日銀だけが動きなし、というよりは、動けない。置いてけぼりが鮮明で、もっと円安が進んでも良さそうだと考えるのが普通だ。
しかし、もし市場が米国利上げの打ち止めまで見始めてるとしたら?それも足かせとなってECBの利上げも遠くなるとしたら?
こういう時、市場には、もっと短期志向でいて欲しいと願うのは身勝手というものか。