前回のレポートで述べた通り、日経平均のEPS1400円をPER15倍で評価してやれば2万1000円。2015年につけた高値はPER14倍台にあり、きっかけさえあれば2015年の高値を抜けてくるだろう。前回のレポートでは、「7月下旬から始まる4-6月期の決算発表で、引き続き業績の安定性を確認すればバリュエーションの修正が起こる」というシナリオを述べていたが、それに加えて円安が高値トライのきっかけになる可能性が出てきた。

世界的な金利上昇が円安の背景だが、主要な中央銀行が金融緩和の出口を模索するような兆しが出ている中で、日銀だけが蚊帳の外という状況が円安を加速させている。世界の中央銀行のなかでFRBはもっとも「出口政策」の先頭を走っていると言えるだろう。それにもかかわらず、ドルは弱い。ドル・インデックスは年初からほぼ一本調子に値下がりしている。そのドルに対して円が売られているということは円は独歩安ということである。

今日の日本経済新聞のマーケット欄も世界的な金利上昇について書いている。その論調については首をひねるところも多く、突っ込みどころ満載だが、それには触れず、事実の記述のみ引用しよう。
「主要国の中央銀行トップが金融引き締めを示唆したことを受け、世界的な金融緩和局面の終わりが近づいたとの見方が広がり、欧米の長期金利が急上昇。金利上昇は世界を巡り、利上げ観測が乏しかったオーストラリアにまで波及した。(中略) 欧米の長期金利は6月末に急上昇した。現地時間の7月3日早朝までにドイツ長期金利は一時0.49%台と約3カ月半ぶりの水準に上昇。米長期金利は2.3%と1カ月半ぶりの高さとなった。」(7/4日本経済新聞)

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が「デフレの脅威は過ぎ去った」「金融政策の調整は可能」などと語ったことをきっかけにECBのテーパリング観測が急浮上した。また英中銀のカーニー総裁も利上げを示唆したことにくわえ、カナダ銀行(中央銀行)のポロズ総裁とパターソン副総裁は、2015年に実施した利下げは役割を果たしたとの見解を示した。このような金融緩和の出口を示唆するような要人発言が連発していることが、世界的に長期金利が上昇している背景である。

FRBはもっとも「出口政策」の先頭を走っていると上述したが、だからこそ市場は最近出てきたホットな材料のほうに強く反応する。その結果がユーロ高でありポンド高でありカナダドル高であり、すなわちドル安である。今の為替市場はドルも弱いが、円はさらに弱いという状況である。何か日本に悪材料があって円が売られるのは必ずしも日本株にとってポジティブではないが、今回のような円安は素直に日本株の買い材料になる。

金利上昇は金融株の、円安は自動車・機械・電機などの外需産業の、それぞれ買い材料になる。そしてこれらは日本株式市場の主力業種であり、ここに買いが戻ってくることが高値トライの必要条件だった。

さらに好材料がある。世界の製造業の景況感の改善である。昨日発表された6月の日銀短観は、大企業製造業の業況判断指数(DI)がプラス17だった。前回3月調査(プラス12)から5ポイント改善した。改善は3四半期連続で2014年3月調査以来の高水準だった。また同じく昨日発表された米国のISM製造業景況感指数は57.8と前月から2.9ポイント上昇し、2014年8月以来2年10カ月ぶりの高水準となった。中国の国家統計局が発表した6月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は51.7と、前月の51.2から改善し、3月以来3カ月ぶりの高水準となった。また財新版のPMIも50.4と50を回復した。

特筆すべきは6月のドイツの製造業購買担当者景気指数(PMI)で改定値は59.6と、速報値から上方修正され、6年2カ月ぶりの高水準を更新した。このドイツのPMIの強さに牽引されユーロ圏全体のPMIも高水準にある。

ポイントは、世界の景況感が改善し、そろって高水準にある、ということだ。

日銀短観DIとISM指数は2014年以来の水準と述べたが、実は中国のPMIも2014年には高水準にあった。その時点では製造業の景況感は日米中とそろい踏みだったが、欧州だけが低迷していた。ECBの量的緩和は2015年からだから2014年はまだ債務危機の影響が色濃く残っていたのだ。そのECBの量的緩和もいよいよテーパリングが取沙汰されるようになってきた(余談だがわずか2年で出口だ。日銀のQQEとの差はなんなのだろう)。それほどまでに景況感が改善している。

そういうわけで、今回は日米中欧・主要4地域の景況感がそろい踏みだ。世界的に製造業の景況感がこれほど良いという時期もめったにない。この状況は「グローバル景気敏感株」といわれる日本株にとっては非常に強い材料だ。

グローバルな景況感の改善に円安が重なっている。日本株にはこれ以上ない環境のように思われる。

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