3月期の決算発表がほぼ出そろった。日本経済新聞社の調べによると、上場企業の前期の経常利益は約1%減り、4年ぶりの減益決算となった(除く金融・電力)。資源安の影響で商社や石油、非鉄が多額の損失を計上したほか新興国景気の減速で建機や鉄鋼も大幅減益となった。

今期はこうした要因がなくなることに加えて、小売りや通信など非製造業が増益となる。一方、自動車や電子部品、機械など製造業は円高によって業績が落ち込む。ドル円相場の想定レートを1ドル110円とする企業が多く、為替次第で2期連続の減益となるリスクもあるが、現段階では上場企業全体で3%程度の経常増益が見込まれている。

日経平均構成企業の当期純利益で見ると増益幅は約9%に拡大する。これを日経平均の1株当たり利益に換算すると約1,200円になる。平均的な株価収益率15倍で評価すれば1万8000円だ。今期の予想利益からみれば現在の株価は割安といえるだろう。

と、さらっと書いたが、これまで「日経平均の1株当たり利益」というものを、あまり注釈せずに使ってきたが、良い機会なので今回は詳細に述べてみたい。

当たり前のことだが、日経平均は株価指数であって、「日経平均」という会社があるわけではないのだから、「日経平均の1株当たり利益」というものは厳密に言えばないわけである。では、これは日経平均を構成する225銘柄の個別EPSを平均したものか、と言えばそれもまた違う。

日経新聞に、日経平均やTOPIXのPERが掲載されている。それをもとに割り返して求めた疑似的なEPSである。例えば、昨日の日経平均の終値は16,466円だった。今朝の日経新聞に掲載されている日経平均の予想PERは13.75倍。よって、

16,466円 ÷ 13.75倍 = 1,197円

1,197円が日経平均のEPSというわけだ。

では、日経新聞に載っているPERはどのように求めるのか。以下の手順による。
①まず日経平均を構成する225銘柄の普通株ベースの時価総額の合計を求める。時価総額は個別銘柄の終値を、自己株を除いた発行済み株数にかけて計算する。
②次に各銘柄の予想純利益を合計する。
③時価総額の合計を予想純利益の合計で割る。

ちなみに以上は加重平均ベースのPERの算出方法だが、それとは別に単純平均のPERというものも計算されている。

単純平均の場合は、
①まず日経平均を構成する225銘柄について、(株価×(売買単位÷1,000))という計算をして売買単位を揃えた株価を算出しそれを225銘柄分合計する。
②次に予想純利益を、自己株を除いた普通株式数で割って各銘柄の予想1株当たり利益を算出する。
③続いて(予想1株当たり利益×(売買単位÷1,000))の計算をして売買単位を揃えた予想1株当たり利益を算出しそれを225銘柄分合計する。
④株価の合計÷予想1株当たり利益の合計を行う。

書いている当人もこんがらがりそうな方法で、ちっとも「単純な平均」ではないが、なんのためにこんな複雑な計算をするかといえば、赤字企業も含めることができるからだ(単純に個別銘柄のPERを足して225で割るという方法では、赤字の場合PERが計算できない)。

直感でわかる通り、この単純平均のPERは不適当であろう。だからこそ、日経新聞もこちらではなく加重平均ベースのPERを使っているのだろうと推察される。

しかし、ここでこういう反論が予想される。日経平均株価の算出自体は単純平均でなされるのに、PERの計算が加重平均ではちぐはぐになってしまうのではないか?

その答えは、「加重平均」と捉えるからおかしいのであって、実際は「合計」なのである。「日経平均」という会社があるわけではないと前述したが、ここではあたかも「日経平均株式会社」という企業があると考えてほしい(持ち株会社みたいなものを想像してもらえばいい)。そして、その傘下に225の事業会社がぶらさがっている。「日経平均株式会社」という企業の利益は、傘下の225の事業会社が稼ぐ利益の総額(赤字も含む)であり、「日経平均株式会社」の企業価値(時価総額)は225の事業会社の時価総額の合計に等しい。よって「日経平均株式会社」という企業のPERは225の事業会社の時価総額の合計を225の事業会社の利益の合計で割ったものになる。

そのようにして求めたPERで日経平均株価を割って求めたものが、これまで注釈なしで使ってきた「日経平均の1株当たり利益」というものである。さて、その推移を見ると、昨年12月ごろまでは1,200円程度度だったが業績下方修正とともに低下し4月下旬にはついに1,100円を割り込む水準となった。ところが5月6日をボトムに上昇に転じ、決算発表が佳境を迎えた先週を通じて約100円も増加した。EPSが100円違えばPER15倍で1,500円の開きが出る。わずか1週間で1,500円も理論値が高まったと言える。この背景はなんだろう。

冒頭で述べた通りのことが背景である。つまり自動車等の為替敏感企業の業績は悪化するが、前期に巨額損失を出した商社等資源関連企業の業績改善で相殺されたということである。

表に具体的な増額修正・減額修正を記載したので確認いただきたい。例えば、一時は「トヨタショック再来か?」とまで懸念されたトヨタの減益決算があった11日。トヨタの今期(17年/3月期)の予想純利益は1兆5000億円と、決算が発表されるまでの今期(16年/3月期)の予想純利益2兆2700億円(実額は2兆3126億円と上振れて着地)から7700億円の減額となった。ところが同日発表されたJXは前期の減損がなくなるため4550億円の増額となった。このため、「日経平均株式会社」という企業の利益総額は2672億円の減額で済んでいる。その前日の10日は商社の決算を受けて9500億円を超える増額となっている。

このように「日経平均株式会社」という企業の利益総額の推移を見ると、トヨタ等の減額修正を含めても、EPSがボトムをつけた6日からちょうど1週間後の13日の間に1兆3500億円も増加した。

決算発表を通過し、今期の業績をもとに改めて株価評価を行った結果、上値余地をじわりと市場が見出す結果となった。それが足元の相場堅調の背景である。