みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。パラリンピックでは日本選手の活躍が続いています。うれしいですね。やはりゲームは熱く、筆者は(仕事はさておき)やはり手に汗を握っての応援の日々となっています。ただし、その間に俄かに政治情勢に混迷の色が見えてきました。米国の鉄鋼アルミ輸入関税の導入、米朝首脳会談の決定、米国務長官の交代といった国際情勢に加え、国内では公文書の書き換えが露見しました。株式市場も乱高下が続いており、こういったニュースを評価しあぐねているように思えてなりません。株式市場は依然として日柄調整局面と割り切るべき状況に変化はない、と筆者は見ています。

さて、今回は「大阪」をテーマに採り上げたいと思います。言うまでもなく、大阪は日本を代表する大都市の一つであり、太古の昔よりの歴史を持つ土地でもあります。江戸時代には世界で初めて商品の先物取引が開発されるなど、大阪は経済都市としても独自の発展を遂げてきました。そういった歴史を背景に、大阪の方々が大阪を東京に対応可能な国内唯一の都市と自負し、大阪に高い誇りを持っていることは実に有名です。しかし、近年は自動車産業を牽引役とした名古屋の台頭などもあり、大阪では地盤沈下が指摘されて久しい状況となっていました。実際、マクロ統計面では既に国内第二の都市とは云い難い状況にあり、人口では2010年に3位に転落したうえ(2位浮上は神奈川県)、一人当たりの県民所得に至っては2016年時点で13位にも沈んでしまっているというのが現実です(2位は名古屋を擁する愛知県)。「大阪人」のプライドとは裏腹に、他所からは「大阪は既に一地方都市に過ぎない」といった認識が浸透しつつあったように、筆者は感じています。

ところが、そういった状況に変化の兆しが見えてきました。前述の通り、マクロ統計ではまだその変化は確認できませんが、明らかに大阪には活気が戻ってきているように思えるのです。いくつか例を挙げると、まずテーマパークであるUSJの好調が目を惹きます。USJは3年連続で入場者数が過去最高を更新しており、ある旅行サイトでは人気テーマパークランキングで初の国内1位を獲得しました。大阪市内の鉄道インフラにおいても、2006年の大阪市営地下鉄今里筋線を皮切りに、JRおおさか東線、京阪中之島線、阪神なんば線といった新路線が開通し、利便性が一気に改善しています。さらに、おおさか東線の延伸、なにわ筋線の設置といった建設計画が進んでおり、人とモノ・サービスを呼び込む仕掛けが一層整備される予定です。また、ビジネスの中心である御堂筋においては、建築規制の緩和がなされた結果、たくさんの路面店が出現し、夜でも明るく活気の絶えない通りへと変貌しました。百貨店売上に至っては、2017年では全国統計(既存店ベース)が横ばい圏に留まる中、大阪地域のみは6%超の伸びを記録しています。街が活気を取り戻すには10年タームの時間が必要であろうことを考えれば、こういった兆しは今後徐々に成果に結びつき、大阪を復活させていくのではないか、と期待したいところです。

これらの変化が生じてきた背景には、大阪復活に向けての大胆な政治主導があったことと、それを支持する住民の方の後押しがあったからに他なりません。そしてそれ以上に、そういった素地があったところに、大阪を訪れる訪日外国人が急増したことが強烈な触媒となったことも確かでしょう。爆買いから体験へと需要の流れがシフトする中、市井のお好み焼き屋さんに至るまで総合エンタテインメント感に溢れる大阪の街は訪日旅行者の琴線に触れる機会も多いのだと想像します。その結果、大阪は2年連続で「(観光客の)急成長渡航先ランキング」で世界一となっており、大阪を訪れる訪日外国人数は既に東京に比肩する水準に到達しています。今や関西国際空港は日本最大のLCC就航拠点となり、それがまた訪問客数を引き上げるという好循環を実現しているようにも思えます。近未来感溢れる東京、伝統の京都に対し、大阪は親近感やエンタテインメントという立ち位置もまた、差別化ポイントとなっているのかもしれません。もちろん、訪日外国人向けの「おもてなし」に官民を挙げて大阪が努力してきたことは言うまでもありません。

株式投資を考えるうえでも、こういった変化の兆しは非常に重要です。2000年代後半に名古屋が一気に躍進した際は、「名古屋関連銘柄」が幅広く注目されました。同様に、大阪が復権してくるとすれば、「大阪関連銘柄」が少しずつ注目を集めて行く可能性は十分あると云えるでしょう。そして、それはかなり長期間指摘され続けた東京への一極集中に対し、新たな展開が生じるきっかけになるかもしれません。強いライバルの出現が全体のレベルを引上げることは、スポーツも経済も同じはずです。東京以外の都市の成長が日本経済の強靭化に繋がり、少子高齢化で先細り懸念が指摘される我が国の復活に一石を投じることを、筆者は強く期待して止みません。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。