5月18日、経済産業省は第5次エネルギー基本計画(案)を公表した。日本のエネルギー政策は、震災後の2014年に策定された現行の第4次エネルギー基本計画の内容が見直され、今夏には新たな計画が閣議決定される見通しとなっている。前回のエネルギー基本計画策定時から約4年が経過し、エネルギーを取り巻く環境も大きく変化してきた。その変化の一つとして、世界の脱炭素化の進展が挙げられる。
2015年にパリ協定が採択されたことを契機に、世界が一丸となって気候変動対策に取り組む体制が整った。各国政府は、パリ協定で合意した2℃目標(世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く抑える目標)をもとに、2050年に向けた温室効果ガスの排出削減目標を掲げている。さらに、一部の国では電気自動車(EV)の普及等に関する野心的な方針を打ち出しており、この数年間で着実に脱炭素化へのシフトが始まってきている。(図1)
脱炭素化の流れは、各国政府だけでなく金融機関や企業が主導している側面もある。近年、一部の金融機関や投資家の間で、企業へ投融資する際の判断基準の一つとして気候変動リスクを考慮する動きが広がってきている。具体的には、環境・社会・ガバナンスの観点から優良な企業に投資するESG投資の拡大や、投資家が企業に対して気候変動に伴うビジネスリスクや機会に対する対策を講じるように働きかける動きが増えてきており、こうした投資家の動きに対して、企業は自社が抱える気候変動リスクに関する情報開示を行わざるを得ない状況になりつつある。(図2)
さらに企業が主体的に進める気候変動対策の一例として、環境にやさしい再エネ電気を求める動きが進んでいる。2014年に結成したRE100は、事業に必要な電力を100%再エネで調達することを目標に掲げている企業群で、2018年5月時点で加盟企業は欧米を中心に136社、そのうち日本企業は7社まで増加している(図3)。5月15日には外務省がRE100認定を目指す意向を表明し、環境省もこうした再エネ電気調達の取り組みを推進する意向を示していることから、今後も多くの企業が再エネ電気を求めるようになるであろう。
こうした企業による脱炭素化の取り組みは、最終的には政府が掲げている長期の温室効果ガス目標の達成につながる。現在は、一部の企業に限った先進的な取り組みかもしれないが、これらの企業は今後ますます多くのステークホルダーを巻き込みながら脱炭素化を加速させていくことが想定される。
以上述べたように、第4次エネルギー基本計画を策定した2014年以降、エネルギーを取り巻く環境は大きく変化しており、各国政府・金融業界・産業界が脱炭素化を推し進める動きは今後さらに加速していくことが予想される。それを踏まえて、第5次エネルギー基本計画では、エネルギーを取り巻く大きな変革の波に乗り遅れることなく、脱炭素化を日本にとっての商機と捉える視点がますます重要になってくるだろう。
コラム執筆:浦野 愛理/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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