2012年末に第2次安倍内閣が発足し、2013年3月に黒田東彦氏が日銀総裁に就任してから5年以上が経過した。その間、アベノミクス、特に黒田日銀総裁による大胆な異次元金融緩和の効果もあり、日本経済は息の長い景気拡大を続けている。内閣府の景気基準日付によれば、日本経済は2012年12月から景気拡張局面に入り、拡張期間は2018年4月で65カ月目に入った模様である(以下これを「第16循環」とする)。これは戦後最長の景気拡張期間を記録した2002年2月から2008年2月の73カ月(以下これを「第14循環」とする)に次ぐ長さである。
しかし、これら2つの景気拡張局面を比較すると、大きな違いがある。それは図表1の通り、第14循環が輸出の追い風を力強く受け続けていたのに対し、第16循環つまりアベノミクスは足元まで殆ど輸出の追い風を受けられなかったということだ。これについて「日銀の異次元金融緩和を通じた円安は輸出数量の増加に寄与しなかった」との意見も聞かれるが、図表1の通りアベノミクス期間中(概ね2013年以降)の世界経済成長率が総じて低水準にとどまったことも輸出数量抑制要因として忘れるべきでないだろう。
IMF(国際通貨基金)によれば、2016年後半以降米国・中国・ユーロ圏・日本で景気拡大が続き、2017年は6年振りの高成長(3.8%)となった。2017年の世界経済の高成長を受けて、図表1の通り日本の輸出数量指数も7年ぶりの高成長を記録した。今年4月に発表された最新のIMF経済見通しによれば、2018年、2019年とも世界経済成長率は2017年を上回る3.9%と予測されており、日本の輸出も当面は安定的に推移するとみていいだろう。
先述の通り、アベノミクスが輸出の追い風を受け始めたのは2017年に入ってからである。従って、2017年通年の輸出増加に寄与した品目を調べれば、現在日本が輸出競争力を有する品目を端的に知ることができる。HSコード(貿易商品分類のための番号)4桁レベルで輸出増加寄与度上位30品目を概観すると、それらは以下の6つに分類できる。①半導体製造機械、検査・測定機械(HSコード8486、9030、9031)、②集積回路(LSI)(同8542)、③液晶デバイス(同9013)、④乗用車・自動車とその部品(同8703、8708、8409、8408、8407、8483)、⑤建設機械(同8429、8431)、⑥金属製品と金属屑(同7208、7204、7112、7225)。
一方、これらの中には輸出の増加に寄与する一方で、輸入もまた多く、純輸出(輸出-輸入)の増加という観点からは輸出競争力が低い品目も存在する。この観点から、輸出増加寄与度上位30品目の貿易特化係数を算出した結果、輸出競争力が相対的に高いと考えられるのは、「半導体生産サプライチェーンの川上にあたる製造・測定・検査機械」「自動車」「建設機械」だった。
実際、図表2の通り世界半導体売上高と日本の輸出数量指数の間には驚くほど高い相関性が見てとれる。これは先述の通り半導体製造・測定・検査機械の輸出が増えていることや、自動車・建設機械に組み込まれる半導体の量が増加しているためと考えられる。WSTS(世界半導体市場統計)によれば、2018年の世界半導体売上高は前年比+7.0%と予測されている。従って先のIMF世界経済見通しと併せて、世界半導体売上高予測の観点からも、日本の輸出は少なくとも2018年中は堅調を維持できるのではないかと考えている。
コラム執筆:榎本 裕洋/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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