【写真1】は住宅地に立つ高圧線鉄塔であり、確かに迷惑設備という印象だ。農業地帯にこうした鉄塔を立てる場合は、脚が農地に食い込むと農地転用の手続きがいるそうだ。関係者との調整に時間もコストもかかるというのはうなずける。再エネ導入にはこうした送電線網のキャパ強化・新設が必要だから、再エネ事業は進まない、と言われるゆえんだろう。

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1.ビジネスに必要な公共インフラを事業者自身が整備するのは例外的

しかし、こうしたコストは本当に再エネ事業者にヒモ付けられるべきなのだろうか? 昨年11月、JR北海道が管内の10路線の廃止を発表した。宗谷本線すら「JR単独で維持することが困難な線区」と区分されている。かつて北海道や九州で石炭輸送に利用された路線の多くは既に廃線となったが、そうした鉄道は石炭事業者やその関係会社が建設したものばかりではなかった。まして、港湾施設や需要地まで一気通貫の路線に投資することはなく、短距離の引込線だけか、せいぜい付近にある国鉄(現JR)路線という公共インフラまでだった。

東名高速道路の渋滞(キャパ不足)対策とバックアップを目的に総事業費7兆円で建設中の第二東名高速道路はさっそく物流事業者等に歓迎されている(注1)が、物流事業者が建設費を直接分担したわけではない。また、インターネット・ゲーム業界はクールジャパンを代表するものだが、そうしたゲーム開発会社がインターネット網幹線の建設費用を負担しているという話は聞いたことがない。このように、既存の送電線網が総括原価方式の下に電力事業者の費用負担で整備されたことのほうがむしろ例外的であり、再エネを本気で普及させる気があるなら、送電網は公共インフラとして公費で整備すべきだろう。

2.送電線建設コストは節約できる

さて、送電線網は迷惑な高圧鉄塔なしでは整備できないのだろうか?実は、かつて首都圏の私鉄では架線柱と送電線鉄塔を併用する姿が一般的だった(注2)(【写真2】【写真3】)。

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また、都市部の幹線道路の地下には共同溝(注3)が建設され、高圧線ケーブルも格納されている(注4)(【写真4】)。長く伸びる鉄道軌道や幹線道路はこうしたケーブルを張るのにきわめて好都合である。
丸紅らが参画した日本送電は、風力発電の適地が多い北海道北の宗谷・留萌管内から道央への送電線を経済産業省の補助を受けて建設する予定だったが、採算が合わないことが判明し、計画を凍結せざるをえなかったと報じられている。では、「JR単独で維持することが困難な」宗谷本線の軌道を再エネ事業者等が有償で借りて送電を行うことにすれば、送電線の整備も宗谷本線の維持もできるのではないだろうか。

3.先入観を捨てて知恵をしぼれば再エネ開発は一気に進む

このコラムで何度か紹介している2016年の経済同友会の再エネ提言書(注5)では、再エネ適地の自治体が電力多消費型の企業を誘致して再エネ電力の地産地消を行えば、そもそも系統整備に要するとされる費用や時間を大幅に節減できる、としている。新たな企業を誘致することが、再エネ事業者の誘致にもつながって、地方創生にダブル効果があるという提言である。例えば、電力需要の大きいデータセンターのような企業を夕張市に誘致し、宗谷岬周辺で風力発電した電気を、JRの路線に沿って送電する、といったことができたら、地方創生と再エネ推進といった政府目標に加え、JR北海道の経営改善と地元住民の生活の足の確保にも貢献しそうだ。 第148回の本コラムで水力発電のポテンシャルを指摘したが、その後、当社幹部と環境省幹部との意見交換の席に陪席させていただいた際に、環境省側から「実は、水力発電に注目している」との発言があった。やはり一般メディアの報道による既成概念とは異なる事実もあることを再認識したところだ。
再エネ事業者が自前で送電線網を整備するのが困難なことが再エネ大量導入の足かせだと思われているが、先入観にとらわれずに知恵を絞りだせば、解決はできそうだ。そうすれば、北海道のような再エネ適地での再エネ開発が一気に進むのではないだろうか。

(注1)2016年3月25日中日本高速道路株式会社ニュースリリース『【開通1ヶ月】新東名高速道路(浜松いなさJCT~豊田東JCT)のストック効果』
https://www.c-nexco.co.jp/corporate/pressroom/news_release/3826.html
(注2)「鉄道架線共架」や「鉄道架線柱併架形」と呼ばれる送電線の形状。これは東京電力の三鷹変電所と車返変電所とを結ぶ送電線「車返線」である。

(注3)共同溝は、路上工事をなくすことを主目的に、道路の地下に電気・ガス・上下水道などのライフラインをまとめて収容するもの。
http://www.ktr.mlit.go.jp/toukoku/chika/question.htm

(注4)CATV黎明期に東京ケーブルテレビジョンのような電鉄系事業者が先行したのも、同様な理由であろう。

(注5)2016年6月28日経済同友会 環境・資源エネルギー委員会『「ゼロ・エミッション社会を目指し、世界をリードするために」―再生可能エネルギーの普及・拡大に向けた方策―』
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2016/pdf/160628a.pdf
コラム執筆:松原 弘行/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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