2016年11月30日、石油輸出国機構(OPEC)が総会で8年ぶりとなる減産を決定しました。OPEC加盟国は、2017年1月より、生産量を日量約120万バレル削減し、合計生産量の上限を日量3,250万バレルとする、という決定です。
今回の合意の2ヶ月前に、OPECはアルジェリアで実質的な減産となる生産目標枠を表明しました。加盟14カ国の合計生産目標量の上限レンジを示した、この「アルジェ合意(注1)」は、販売シェア重視から価格重視へのOPECの方針転換として注目を集めたものの、合意の実現性には懐疑的な見方がされていました。実際、アルジェ合意後にOPEC生産量は増加し、11月30日の総会で具体的な合意ができるかを疑問視する声も多く聞かれました。
OPEC加盟国は個別にさまざまな事情を抱えており、一枚岩ではありません。特に、昨年、核開発問題の解決に向けた合意後に制裁が解除されつつあるイランは、制裁前の生産シェアの回復を強く希望していました。また、ISIS(『イスラム国』)との戦闘に苦しむイラクも特別な配慮を求めて、合意に難色を示していたとされます。そんな中、最終的にサウジアラビアが大幅な減産量で譲歩することで、なんとか全体をまとめたとされます。その甲斐があってか、市場では、原油価格が大きく反発しました。複雑な環境下で一定の合意を取り付けたという今回のOPECの決定は、市場に対して、これ以上原油価格を下落させないというメッセージを送ることに成功したように見えます。
一方、今後の価格の大幅な上昇については、懐疑的な見方が多いのも事実です。というのも、過去のOPECの行動を見ると、生産枠が守られる保証はどこにもありません。また、合意文書には前提として、ロシアを含む主要な非OPEC加盟国が日量60万バレルの減産に貢献することが含まれています。確かにロシアはOPEC総会当日に、ノバク・エネルギー相が、最大日量30万バレル減産するという旨をモスクワで発言し、OPECの決定に理解を示しましたが、この発言には「技術的能力の範囲内で」という条件がつけられています。ロシアの原油生産の主力である西シベリア産の原油には、低温で固化するパラフィンが2-4%含まれており、冬季に生産を停止するとパイプライン内で原油が固まり設備が使えなくなる恐れがあるため、「技術的に」ロシアが減産できるかは極めて微妙です。また、現時点では米国の原油生産量増加はいったん止まり、世界の原油需給バランスは調整に向かっていますが、もし原油価格が1バレル50ドル超で推移した場合、米国のシェールオイルの生産量増加が予想されます。
2年前の2014年11月末の総会で、OPECは生産目標の引き下げを見送り、原油価格の下落を容認しました。価格は市場に任せ、シェアを重視するというOPECの戦略が明確になったことで、供給過剰の長期化が想定され、原油価格は大きく下落しました。今回の総会の決定は、このシェア重視戦略からの方向転換を意味します。シェールオイルの増産により、原油価格の上値は限定的となりそうですが、過去2年間の価格の弱気ムードには終止符が打たれ、原油価格は徐々に上向くのではないでしょうか。
注1:「アルジェ合意」(Algiers Accord)は、OPECが2016年9月28日にアルジェリアで開催した臨時総会で表明した、加盟14カ国の生産目標を日量3,250万-3,300万バレルに設定するという事実上の減産合意。
コラム執筆:村井 美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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