東京商工リサーチによると、2015年決算(1-12月期)の上場企業のうち、約2割が「チャイナリスク」を事業リスク要因に挙げている。現在の中国経済の実際はどうなのか、見てみたい。

1)主要目標の特徴

中国は毎年3月に開催される全人代(国会に相当)で1年の経済目標を発表する(図表1)。今年の特徴は、大きく3つある。第1に、2016年の経済成長率目標が昨年の7%から6.5%-7%に下方修正された。レンジ目標にしたのは初めてであり、柔軟に対応可能な幅を確保したい狙いがあることが伺える。第2に、昨年達成されなかった三つの需要項目の目標を取りやめた。貿易、消費、投資については、昨年までほぼ毎年目標が設定されていた。第3に、昨年達成できた雇用・金融・財政関連でより強気な設定になった。

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その中でも最大の変化は、財政赤字率目標を対GDP比3%に設定した点である。中国政府は、従来財政に保守的で債務を増やしたくない傾向がある。「財政赤字をGDPの3%以内に、政府の累計債務残高を同60%以下に抑える」というユーロ圏の加盟ルールを暗黙の「目安」としていた。
図表2で示すように、中国は3%以上の財政赤字を計上したのは、今までは経済危機や災害時などの有事の際のみであった。今年は平常時であるにもかかわらず3%を設けたのは、史上初めてとなる。かつ、「中国の財政赤字及び債務残高は主要国の中で低水準にあるため、財政赤字を拡大するのが必要・妥当・安全的である(3月全人代)」とし、「ユーロ・ルール」を停止する構えである。中国では地方政府が中央政府以上に債務を拡大してきており、その処理がまだ進んでいない。その中、さらに政府債務が拡大することになると、財政の健全性が確保できない恐れがある。

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2)ストック調整が急務

2016年の政府ミッションには、5つの課題が挙げられている(図表3)。その大半がストック調整関係である。鉄鋼産業、石炭産業、住宅の在庫、地方政府債務が主なターゲットとなった。
第1に、過剰生産能力の除去。過剰生産能力業種のうち、最も深刻な状況にある鉄鋼と石炭が、今年の対象である。新規建設は禁止されると同時に、今後3~5年の間に粗鋼生産能力を1~1.5億トン削減し、石炭については5億トン削減することが決まった。180万人の雇用に影響が出ると想定されているが、政府は今後4~5年の間に、毎年1,000億元を支出し、再雇用の支援に充てる方針である。
第2に、過剰不動産在庫の消化。不動産は関連産業への波及効果を含むと、GDPの4分の1を支える最大の産業である。近年、在庫が急増し不動産及び経済全体に影を落としている。2015年の住宅販売戸数は1,100万戸強であるが、在庫は450万戸に増えている。政府は、農民工が出稼ぎの居住地において都市住民として生活ができるよう戸籍制度を緩和し、不動産の新規需要を掘り出そうとしている。
第3に、地方政府の過剰債務の抑制。地方政府が返済責任を負う債務残高は2015年末でおよそ16兆元と、中央政府分の約1.5倍に巨大化している。地方政府同士が競争し適正水準を遥かに超える規模の都市建設を行うために、中央政府には明示せず債務を拡大してきた。中央政府はその抑制に取り掛かっており、2015年においては、新規債務発行額に6,000億元の上限を設け、債務残高を16兆元に抑制した。さらに、既存債務のうち、3.2兆元の借り換えを実施し、金利負担を10%から3.5%に低下させた。2016年においても、同様な対策が強化され、新規及び借り換えを合わせて5~6兆元程度の地方政府債務が発行されると見られている。

3)6%台成長が精一杯

このように、2016年からはストック調整期に入るため、6%台の経済成長を「新常態(ニューノーマル)」にすることで精一杯になる可能性が高い。今後も利下げなどの金融緩和策や小規模な財政出動・減税措置が継続して打ち出されることが予想される。鉄道や電力、パイプラインなどのインフラ・民生分野で潜在的な投資需要を掘り起こそうとしているが、即効薬となる大規模なものは期待できない。そのうえに、株価の下落などで将来への不安が増せば、消費にも影を落とすことが予想される。輸出については、AIIB(アジアインフラ投資銀行)関連の案件が増加すればやや明るさを増そうが、目先は当面厳しい展開になりそうだ。
2016年からは、第13次五ヵ年計画に入る。今後5年間、イノベーションや一人っ子政策廃止により潜在成長率を押し上げ、6.5%以上の経済成長を維持する一方、格差是正・環境保護・改革開放を強化していく方針が固まっている。構造転換期における対中ビジネスについて、従来中国を世界の工場として取り組んできた戦略を見直す必要がある。その中で、中国の巨大な内需市場をどう攻めるのか、国内外で競争力が高まっている中国企業とどう手を組むのかが、大きなポイントになろう。

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コラム執筆:李 雪連/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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