週末に本棚を見ていたら、谷崎の陰翳礼賛が目に留まり、久し振りに読み返してみました。まだほんのちょっとしか読めていないのですが、やはりとても面白いです。その中で書かれていることですが、そしてこれは私が手にした文庫本のあとがきに吉行淳之介も書いていることなのですが、舞妓さんや歌舞伎の女形の化粧は、昔電灯がない時代の明かりの中で考えられたものであり、今の照明の中では合わないという論があります。なるほど。つまり蝋燭ぐらいしか明かりがない中で丁度色っぽくいい感じに見えるように調整され、完成したこれらの化粧は、現代の煌々とした照明の中ではどぎつくて美しくないのではないかと云うのです。(明かりの効果はとても強烈で、食べ物も見え方が随分違います。高級な鮨屋なのに照明が蛍光灯のため、ちっとも美味しそうに見えない店を知っています。)重要なのは前提条件や環境に合わせて伝統も変えていかなくては、本末転倒で意味のない形式だけが残ってしまうと云うことではないでしょうか。そう考えると照明と化粧の関係に限らず、色々な局面で考え直すべきことはありそうですね。
お詫び:先週金曜日の<楽観と悲観>の中で、「世界史を紐解いてみると」は「世界史を繙いてみると」の誤字でした。訂正致します。