マネックス証券の投資教育部門であるマネックス・ユニバーシティでは、現役の中学生、高校生の皆さんから、お金にまつわる素朴な疑問・質問を募集。それに答えることで、お金のことをわかりやすく解説する『世界を知る大人になるための本気の「お金」授業』を連載しています。
マネックス証券が本当に伝えたいお金のこと、世界のこと…、親子で一緒に読んでほしい本音トークを繰り広げます。第13回目は、若い時に培っておきたい思考法などについて、マネックス証券 チーフ・マーケット・アナリストの吉野貴晶が答えます。
「予想好き」から株式市場を分析する仕事に
私が金融というものに強い印象を持つようになったのは、1987年のブラックマンデーがきっかけです。世界的に株価が大暴落したブラックマンデーは、「理由がはっきりしないまま、相場が一気に崩れる怖さ」を初めて実感した出来事でした。不安が不安を呼ぶ形で市場が動いているように感じたことを今でも覚えています。
ただ一方で、その局面で冷静に買い向かった人たちは、その後、1989年の高値に向けた上昇局面で大きな成果を上げました。この経験から「市場は短期的には感情で動く一方、時間をかけて見ると全く違う姿を見せる」ことを知り、金融という世界に強く惹かれるようになったのです。
私はもともと「予想する」のが好きで、そこから「数理統計」を専門分野にし、株式市場の分析に日々携わっています。実は普段の生活でもプロ野球の試合結果やランチのお店の混み具合など、気づけば何かと予想しています。目的は「当てること」そのものではなく、原因や理由を考えながら予想するという行為が好きなようです。そして、こうした何気ない予想の積み重ねが株価予想のトレーニングにもなっています。
「花粉と株価の関係」から分かること、花粉の飛散量が多いと株価はどうなる?
さて、株価の予想が当たれば高いリターンが得られますが、もちろん簡単なことではありません。ここで「花粉と株価の関係」について考えてみましょう。
花粉の季節になると、どのような会社の売り上げが伸びると思いますか?ティッシュやマスク、目薬、空気清浄機など花粉対策グッズを使う人が増え、その関連会社の売り上げが伸びそうです。
特に花粉の飛散量が多いという予想が出ると、「花粉が多くなりそうだ」→「花粉対策グッズが売れるかも」→「その会社の売上が伸びるかも」という流れを想像して、そうした会社の株=「花粉関連株」を買ってみよう、と考える人も多いでしょう。
では、株式市場全体で見るとどうでしょうか? 実は、花粉の影響で注目される会社は市場全体の一部に限られており、花粉関連株以外の銘柄がたくさんあります。さらに、株価全体は景気の良し悪しやニュース、海外の動きなど、もっとたくさんの要素が合わさって動いています。つまり、花粉は株価を動かす「スイッチのひとつ」にはなるけれど、「全部を決めるスイッチ」ではないということです。また、花粉が多すぎると花粉症の人は外出を控えるため、レジャーや外食などの需要にマイナスの影響が出るうえ、花粉症がつらいと仕事の生産性にも影響してきます。
花粉が増えると、花粉症対策関連への注目は相場にプラスになるものの、個人消費などへのマイナスの影響が大きいため、結果的には相場を低調にさせるのです。このように株価は様々なことが密接につながる中で、日々値動きをしています。
コレラから人々を救った「探索的な統計」とは?
ところで、私が大学院の博士課程時代に、研究室の先生から聞いた印象的な話があります。それは「探索的な統計は人を救う」というものです。
この探索的な統計で有名なのが、19世紀ロンドンでコレラの流行を収束させたジョン・スノウ医師のエピソードです。当時、「病気は悪い空気(瘴気)が原因だ」と信じられていたなか、スノウ医師はその「常識」をいったん脇に置き、死亡者の家の場所をひとつひとつ地図に書き込むという「探索的データ分析」に取り組みました。
すると、死亡者がある特定の井戸のポンプ周辺に集中していることが見えてきたのです。そのポンプの取手を外して井戸が使えないようにすると、コレラの流行は急速に収束していきました。数字やデータを「まず眺めて、偏りや集まりに気づく」探索的な統計が、人々の命を救うことになったのです。
そして投資の世界でも、こうした探索的な統計で市場を見ることがとても大切なのです。
日本は「余白」が多い国、その余白に気づけるかどうかが大切
さて、中高生のみなさんは日本の未来をどのように感じていますか?私は日本の最大の強みは「若者がまだ気づいていない余白」が多いことだと思っています。
日本は成熟した国に見えますが、「重要性が高いにもかかわらず、本気で取り組む人が少ない分野」がまだ多く残っています。問題の所在は明確なものでも、専門性を持って掘り下げ、継続的に取り組む人が足りていないことが原因なのでしょう。
例えば、自然科学分野では、基礎研究の蓄積はあっても、社会実装や分野横断の技術開発が十分とは言えない技術を「高め続ける人材」は、まだ十分とは言えません。社会科学分野でも、制度設計、金融教育、行動科学、データ活用などに改善余地があり、理論と現実を結びつけられる専門人材も決定的に不足しています。また、企業改革やガバナンス、金融・データ分野では、知識や技術の蓄積がまだ途上な部分もあるでしょう。
日本には再編途中の産業が多く、「完成された正解」がまだ存在しない分野が少なくありません。こうした領域では、突出した才能よりも、課題に気づき、地道に技術や知見を積み上げられるかが重要になります。
「気づいた人から動ける余白が、今も数多く残っていること」が日本の最大の強みだと思います。みなさんもこの先、「どこに余白があり、どの分野で技術や知識を高めるべきか」をぜひ考えてみてください。必要とされる分野を見つけて力を磨き続けることが将来の大きな力となるはずです。
みんなと同じ答えにたどり着いた時は「もう一歩先」を考える
最後に、投資についてのお話をさせてください。投資と聞くと「ちょっと難しそう」とか「運が良くないとダメなんでしょ」と思うかもしれません。でも実は、投資はゲームやスポーツ、
勉強に近いところがあります。
勉強やスポーツ、ゲームにしても最初からすぐ出来るわけではなく、少しずつ積み重ねていくうちに力がついてきますよね。投資も同じで、派手な一発より、少しずつ続けているほうが、後から効いてきます。
投資の世界では、「みんなと同じ答えにたどり着いた時は、もう一歩先を考えてみる」という考え方が、とても大切にされています。この考え方をわかりやすく説明しているのが、ハワード・マークスという投資家です。彼は著書『投資で一番大切な20の教え』(日経BP 日本経済新聞出版)の中で、「正しいことを考えるだけでなく、ほかの人がどう考えているか、その先まで考えることが大事だ」と述べています。
これを投資の世界では「二次的思考」と呼びます。
たとえば理科や社会の勉強で、用語や年号をひたすら暗記している中、テスト本番に「なぜそうなるのか」「この資料から何が言えるのか」と聞かれて、思考が止まってしまうことがあります。一方で、普段から「理由」や「つながり」をなんとなくでも考えていた人は、初めて見る問題でも落ち着いて対応できます。
みんなが同じところまで考えているときに、その少し先を考えていた人が、結果的に差をつける。それが、ハワード・マークスが説く「二次的思考」です。
みなさんもぜひ勉強、スポーツなど今、自分が打ち込んでいること、打ち込みたい事について二次的思考を意識してみましょう。「みんなが考えているよりも少し先」を考える、今日のその10分がきっと未来の自分への投資となるはずです。
