支持率低下が転換したタイミングで行われた「レートチェック」
高市総理が正式に解散・総選挙を表明したのは1月19日だった。この直後に行われた世論調査では、以下の毎日新聞の報道にあるとおり、高市内閣の誕生後、支持率がほぼ初めて大きく低下した。
「毎日新聞は1月24、25の両日、全国世論調査を実施した。高市内閣の支持率は、昨年12月20、21日実施の前回調査(67%)から10ポイント減の57%と大きく下落した。不支持率は前回調査(22%)から7ポイント増の29%だった。支持率は内閣が発足した10月以降、65~67%の高水準を維持していたが、初めての下落となった」。
ただこの支持率低下は、その後続かなかった。むしろ主要メディアによる選挙情勢の分析では、自民党の優勢が伝えられるようになっていった。1月23日の日米協調の「レートチェック」は、為替市場を大きく揺るがした。結果的にそれは、選挙情勢が自民党の劣勢とならず、優勢の流れが明らかになっていくタイミングで行われた。
選挙中の円安値161円更新の可能性が大きく後退
この日、「レートチェック」が行われる前は、米ドル/円は160円突破寸前まで上昇していた。ただ「レートチェック」で下落に転じると、その日のうちに155円台まで米ドル安・円高に戻した。そして翌営業日以降は、トランプ米大統領の米ドル安容認ともとれる発言などをきっかけに、さらに152円割れ近くまで一段と米ドル安・円高となった。
このようにして、少なくとも2月8日の衆院選挙投票日までに、米ドル高・円安が160円を超えて、さらに2024年7月に記録した161円という円安値を更新する可能性は大きく後退した。
そうした中で、高市内閣支持率低下は止まり、選挙での自民党優勢の流れが広がるところとなっていった。しかし、もし161円の円安値を更新し、「止まらない円安」が広がっていた場合でも、状況は同じだったのだろうか。仮に「止まらない円安」は高市政権の政策失敗の結果との見方が広がっていれば、選挙で自民党にマイナスの影響をもたらした可能性は高い。そう考えると、「レートチェック」は、今回の選挙にとっても重要な役割を果たしたということになるだろう。
円安阻止への協力を日本が依頼か=「トランプへの抗議」に不参加の日銀
この「レートチェック」をきっかけとした円高への急反転には、米国の役割がきわめて大きかった。日本単独の「レートチェック」だけでは、一時152円台まで米ドル安・円高へ戻ることはなかっただろう。その意味では、選挙中の円安値更新などの「止まらない円安」回避に成功したのは明らかに米政権の協力の影響が大きかった。
これについて、「米国は日本の長期金利上昇が米長期金利状況に連鎖的に影響していることを懸念し円安阻止に協力した」との見方がある。もしそうであるなら、選挙での勝利を目指した高市政権にとっては幸いな結果をもたらしたということになる。しかし、果たして本当にそうだろうか。やはり、高市政権自らが選挙中の円安値161円更新回避を目指し米政権に協力を依頼したということだったのではないか。
1月11日、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、司法省からの召喚状を受け取ったことを明らかにした上で、これはトランプ政権からの威嚇だと異例の批判を行った。これに対し、ECB(欧州中央銀行)など世界の中央銀行は、パウエル議長を支持しトランプ政権に抗議する声明を発表した。一方、日銀はその声明に参加しなかった。これは、まさにこの頃から日本政府が米政府に対して円安阻止への協力を依頼していたことを示しているようにも感じられる。
日米協調の円安阻止は選挙戦略=選挙後の円安対応変わる可能性も
以上を整理してみる。高市政権は、選挙中に円安値が161円を更新することを、選挙にマイナスとなるリスクと考えた。それを回避するために不可欠な米国の協力を模索し、日米協調「レートチェック」により円安を反転させることに成功した。その結果、選挙での勝利を確実なものにしていったのではないか。
そして実際に、自民党は衆院選挙で勝利した。では今後の円安への対応はどうなるか。円安値161円更新回避の切り札となったのは、米国の「レートチェック」だった。しかしそれは、円以外の通貨に対しても米ドル安拡大をもたらし、その後のベッセント米財務長官による「断じて米ドル売り介入は行っていない」という説明にもつながった。これにより、米ドル自体に下落する脆弱性のあることが確認された可能性がある。そうであれば、円安阻止への米国の協力も、よほどの場合を除き慎重になるのではないか。
今回、日本政府が円安阻止への協力を米国に依頼したということなら、それは2024年までのような単独での円安阻止が困難であることを自覚した結果であると考えられる。そうであるなら、単独での円安阻止介入効果の限界があからさまにならないように、慎重な対応をとる可能性があるのではないか。
