「レートチェック」の「真の目的」とは何だったのか?
日本の通貨当局が円安阻止の米ドル売り介入に出動したのは2022年と2024年だった。それぞれ最初の米ドル売り介入が行われた水準は2022年が145円、そして2024年は160円と見られる(図表1参照)。
今回、1月23日に日米の通貨当局による「レートチェック」が行われたのは、前回(2024年)に米ドル売り介入を開始した160円に迫るタイミングだった。その意味では、当局は公式発言では否定しているものの、実際には2024年と同様に160円程度を円安阻止の防衛ラインとしている可能性がある。こうした前提に立てば、通常は介入出動の前段階とされる「レートチェック」に動いたことも、ある程度想定内と受け止められただろう。ただし、これを米ドル/円の実勢レートではなく、移動平均線からのかい離率、例えば5年MA(移動平均線)からのかい離率で見ると、印象には大きく異なる。
2024年までより早いタイミングの円安阻止は総選挙を意識か
上述のように、2022年と2024年の米ドル売り介入を開始した水準は前者が145円、後者は160円と大きく異なった。ただし、これを5年MAかい離率で見ると、両者はいずれも、同かい離率が30%近くまで拡大したところで介入を開始していた。それに対して今回は、同かい離率がまだ15%程度の拡大にとどまっている中での「レートチェック」となった(図表2参照)。要するに、この5年MAかい離率で見ると、今回の「レートチェック」はこれまでの介入開始よりかなり早いタイミングだったことになる。
なぜこれまでより早いタイミングで介入に動く可能性が出ていたのか。その「謎」を解くヒントは、総選挙との関係にあるのではないか。1月23日に「レートチェック」という介入前段階の行動が行われたのは、160円などの特定の水準の防衛するためではない可能性がある。むしろ2月8日の衆院選の投票前に、象徴的な160円という水準や、この間の円安値である161円(2024年7月)を更新して、「円安止まらず」と大きく報道され注目を集めるような事態を回避することこそが最大の目的だったのではないか。
別な言い方をすると、「高市政権で円暴落」との見方が広がり、それが与党にマイナス材料になることを警戒したことが、2024年までより早いタイミングでの円安阻止に動き出した一番の理由だったのではないか。
早々に日米協調になった「謎」=自力での円安阻止困難を自覚?
1月23日、日本の当局による「レートチェック」との観測が流れると、米ドル/円は159円台から157円台まで急落したものの、すぐに158円台を回復すると、その後は底堅い動きとなっていた。そうした中で、NY時間に入ってから米国の通貨当局も「レートチェック」との観測が流れ、そこから米ドル/円の下落が拡大、結局その日は155円台までの一段安となった(図表3参照)。
気になるのは、2024年までの円安阻止介入はすべて日本単独行動だったのに対し、なぜ今回は介入の前段階とされる「レートチェック」も段階から、早々に日米協調のスタイルになったのかという点だ。
すでに見てきたように、日本の当局としては総選挙前の円暴落回避を至上命題にしていた可能性がある。そうであれば、円安阻止の「最後の砦」である介入の失敗は許されず、いよいよ円安は歯止めがかからなくなる危険があったのではないか。そういう観点からすると、日本の「レートチェック」に対する円反発の鈍さは不気味だっただろう。
おそらく当局には、今回は160円程度で日本単独、つまり自力で円安を阻止するのは困難だとの判断があったのではないか。このため、あらかじめ総選挙前の円暴落回避に向けた「最後の切り札」として日米協調の可能性を模索していた可能性は考えられる。
ベッセント発言が示した円安阻止への協力=高市政権は「借り」ができたのか
問題は円安阻止への協力要請をトランプ政権が受けるかということだ。これについては、「日本の長期金利上昇の波及を懸念した米当局が、円安阻止への協力に動いた」との解説が多いようだ。
ただどうだろうか。米当局の「レートチェック」に為替は円高に大きく反応したが、それに比べると日本の長期金利低下は小幅にとどまっている(図表4参照)。これを見る限り、米国の協力で成果が出たのは、少なくともこれまでのところでは円安の反転であり、長期金利の低下ではない。
1月28日、ベッセント米財務長官はあるインタビューに答え、「米国は為替介入をしておらず、強い米ドル政策も不変」などと語った。これは今回の米当局の「レートチェック」が、米ドル高の阻止や是正というトランプ政権の政策目的で行われたものではないことを確認する発言だ。逆に言えば、日本からの円安阻止への協力要請を受けた結果であることを、間接的に認めたという意味だろう。
それには、日本の長期金利上昇の影響回避という、米国自身のニーズもあったかもしれないが、何よりも協力要請を受けたということが重要だろう。その意味では高市政権はトランプ政権に「借り」ができた状況になっている可能性があるのではないか。
