私は(そんな柄じゃないのですが)美術館とか博物館に行くのが好きです。あれはかなり時間が掛かるものなので、最近は簡単には行けませんが、それぞれの場所に想い出があります。もっとも好きな美術館の一つはNYのメトロポリタン美術館です。とにかく広いのでいろいろな良さがありますが、一番想い出に残っているのは外資系の会社に勤めていた5年ほど前のことです。
当時、いろいろと言葉や文化の違いなども含めて悩んでいました。メット(NYではこう呼びます)に行くといろいろな文化圏からの美術品がありますが、どんなにその絵に詳しかったりどんなに好きでも、その国から来ている人には何か距離感のようなものにおいて勝負にならない、どこかで疎外感を感じてしまうのでした。実際の生活で抱えていた悩みに似た感覚です。しかしエジプト文明のセクションを訪れるとその疎外感がふっと消えました。誰もが等しく驚嘆し、誰もが等しい距離をその展示品に対して持ち、結果として誰もが同列の親戚のような位置にあるように感じられ、私は極めて居心地が良いのでした。目標をなるべく本質に、遠くに持つことは、結果的に精神的に一番楽だと確信するようになったのはこの頃からでしょうか。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
-
ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。