私は(そんな柄じゃないのですが)美術館とか博物館に行くのが好きです。あれはかなり時間が掛かるものなので、最近は簡単には行けませんが、それぞれの場所に想い出があります。もっとも好きな美術館の一つはNYのメトロポリタン美術館です。とにかく広いのでいろいろな良さがありますが、一番想い出に残っているのは外資系の会社に勤めていた5年ほど前のことです。
当時、いろいろと言葉や文化の違いなども含めて悩んでいました。メット(NYではこう呼びます)に行くといろいろな文化圏からの美術品がありますが、どんなにその絵に詳しかったりどんなに好きでも、その国から来ている人には何か距離感のようなものにおいて勝負にならない、どこかで疎外感を感じてしまうのでした。実際の生活で抱えていた悩みに似た感覚です。しかしエジプト文明のセクションを訪れるとその疎外感がふっと消えました。誰もが等しく驚嘆し、誰もが等しい距離をその展示品に対して持ち、結果として誰もが同列の親戚のような位置にあるように感じられ、私は極めて居心地が良いのでした。目標をなるべく本質に、遠くに持つことは、結果的に精神的に一番楽だと確信するようになったのはこの頃からでしょうか。