モトリーフール米国本社 – 2025年10月26日 投稿記事より

イーロン・マスク氏が語ったテスラのロボット「オプティマス」、「企業にとってのゲームチェンジャー」になる可能性

テスラ[TSLA]は世界最大級の電気自動車(以下、EV)メーカーのひとつです。過去1年間はEV事業で苦戦していることもあり、投資家の注目は自動運転ロボタクシー「サイバーキャブ」やヒューマノイドロボット「オプティマス」といった、将来の製品プラットフォームへと移行しています。

テスラのマスクCEOは、オプティマスの汎用性の高さから、これが「企業にとってのゲームチェンジャー」になる可能性があると考えています。先週の第3四半期投資家向けカンファレンスコールでは、オプティマスがとても生産性が高いため、大規模に導入する企業にとっては「無限マネー・グリッチ」、つまり無限にお金を生み出す裏技のような存在になり得ると語りました。マスク氏は2025年初めにも、オプティマスへの需要が非常に高まり、最終的にテスラが時価総額で世界最大の企業になるだろうと予測しています。

このことは株主にとって株価上昇余地を示唆します。しかし、一方で、テスラの主力収益源であるEV販売の低迷を、オプティマスへの期待感がどこまで支え続けられるのかという疑問も残るでしょう。

ヒューマノイドロボット「オプティマス」が、テスラにとって最大のビジネスチャンスになる可能性

オプティマスは、テスラの歴史の中でも最も複雑な製造上の課題を突き付けています。ヒューマノイドロボットには既存のサプライチェーンがなく、テスラはほとんどの部品を自社生産する必要があります。

さらに、人間のような精密な動きを実現するロボットの手や前腕の設計は、マスク氏が当初想定していたよりもはるかに難しいことが判明しています。しかし、マスク氏は2026年第1四半期に販売開始予定の第3世代の「オプティマス3」で、その課題を克服したとしています。

マスク氏はまた、ヒューマノイドロボットが2040年までに人間の数を上回るとみています。ヒューマノイドロボットが製造現場からオフィス、家庭に至るまで、あらゆる場所に実際に導入されるかもしれないからです。彼は特に、オプティマスの生産性は「人間の5倍に達する」可能性があると述べています。オプティマスは1日24時間、週7日稼働し、昼休みや病欠、休暇、福利厚生も不要だからです。これが企業にとっては、「ゲームチェンジャー」となり得る理由だといいます。

マスク氏は、オプティマスの販売が長期的にテスラに10兆ドルの売上げをもたらす可能性があると考えています。同氏の直近見通しによると、テスラは2026年年末に向け「オプティマス3」の量産を開始し、年間100万台の生産を目指すとしています。その後、「オプティマス4」の生産を開始し、年間1,000万台、さらに、「オプティマス5」で年間5,000万~1億台の生産を目指すと述べています。

テスラの中核事業は苦戦が続く

現時点ではテスラの売上高の75%強は、依然として電気自動車(EV)販売からもたらされています。2025年前半における納車台数は72万803台と、前年同期比で13%減少しました。これは、2024年通年の1%減に続く2年連続の落ち込みとなります。

直近の第3四半期には販売が一時的に回復し、納車台数は前年同期比7%増の49万7,099台となりました。しかし、この好調は米国で2025年9月30日に終了した、7,500ドルの税額控除を前にした駆け込み需要の影響が大きいとみられます。そのため、第4四半期の販売は伸び悩む可能性があります。

競合環境は厳しさを増しています。2025年、中国や欧州といった主要市場ではEV全体の販売が伸びているものの、消費者は中国のBYDなど低価格ブランドのEVを選ぶ傾向が強まり、テスラの販売台数は減少しています。つまり、テスラは急速に市場シェアを失っているのです。例えば、2025年上半期に中国でのEV販売に占めるテスラのシェアは7.5%と、前年同期の11.7%から低下しました。

テスラの次なる焦点:自動運転戦略の行方

テスラは最近、人気車種「モデルY」の低価格バージョンを売り出しました。これによって同社の乗用EV事業が再び活性化する可能性があります。しかし、マスク氏はこれまで低価格戦略には慎重な姿勢を示してきました。むしろ自動運転ロボタクシー「サイバーキャブ」への集中を重視しています。サイバーキャブは2026年半ばに量産開始が予定されています。

同社は2025年、米国の一部の都市で完全自動運転(FSD)ソフトウエアを搭載した車両による配車サービスの試験運用を開始しました。ただし現在は安全監督者の同乗が義務付けられており、コスト面の課題が残ります。マスク氏は2025年末までにテキサス州オースティンで「完全無人」の配車サービスを実現し、2026年の「サイバーキャブ」の本格展開につなげたいとしています。

投資家が留意すべき割高なバリュエーション

もしマスク氏の言う通り、テスラが将来的に時価総額で世界最大の企業になるのであれば、株主にとっては大きな株価上昇余地があることになります。本稿執筆時点でテスラの時価総額は1兆3,000億ドルです。現在、時価総額が世界最大の米半導体大手エヌビディア[NVDA]の4兆4,000億ドルに並ぶには、テスラの株価は238%上昇する必要があります。

しかし、投資家がテスラ株を購入する前に、バリュエーションには注意が必要です。テスラの株価収益率(PER)は254倍と驚くほど高く、これはナスダック100指数の7倍、エヌビディアの5倍と、極めて割高な水準です。

オプティマスが本格的な量産フェーズに入るまでには、少なくとも数年かかります。現在のEV事業の現状を踏まえると、現時点でこれほど割高のテスラ株を買うのは賢明とは言い切れません。したがって、投資家にとっては、オプティマスが本格生産開始に近づく2026年末以降、あるいは株価が大きく調整(下落)したタイミングで改めて検討するのが現実的でしょう。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Anthony Di Pizio は記載されたどの銘柄の株式も保有していません。 モトリーフール米国本社はエヌビディおよびテスラの株式を保有し、推奨しています。モトリーフール米国本社はBYDを推奨しています。モトリーフール米国本社は、情報開示方針を定めています。